福祉エリアの協働による多様なニーズへの対応と財源保障

(2007年12月、(財)日本知的障害者福祉協会「さぽーと」2007年12月号に掲載)

【主張】
知的障害福祉分野においては、すでに法整備も整っており、実施機関も市町村となっている。したがって、三障害一元化によって大きく変わることは、サービス事業所の受け入れ対象が原則として三障害となることであろう。各事業所が三障害の受入体制を確立するには、多様なニーズへの対応や専門性の確保等に向けた体制整備が求められる。また福祉エリア内において協働することにより、あらゆるニーズに応えることができるような地域ネットワークを構築することも重要である。それらのためには、三障害一元化に向けた人的・物的資源整備を可能とする財源の保障が不可欠である。

知的障害分野にとっての「三障害一元化」の最大の課題は、事業所が障害の枠を超えて地域のさまざまな福祉ニーズに応え得る社会資源となることであろう。その基本は、各々の事業所が独自性を十分に発揮しながら、福祉エリア内において多様性を失うことなく協働をすることで、それぞれがジグソーパズルのワンピースとなり集合したとき一枚の大きな絵としてあらゆるニーズに応えることができるようなネットワークを構築することだと思う。
世界保健機構(WHO)は、2001年の総会で国際生活機能分類(ICF)を採択した。そこでは、身体機能としての障害によって区別する「医療モデル」による対応が主流であった障害者の生活を、個人のニーズに応じて必要とされるサービスを提供していこうとする「社会モデル」へととらえなおす必要性を提唱している。ちなみにこの春、学校教育法の一部改正により、養護学校は「特別支援学校」と改称された。このようにわが国においても、主体の枠組みを「障害」から「支援の必要性」へと徐々にシフトしてきている。
さて三障害受け入れにあたって、しばしばその前提条件としてあげられるのが「多様なニーズへの対応」と「専門性の確保」である。
障害者の各種のニーズ調査の結果を見ると、事業所に求めるものは、障害種別によっても異なる傾向が見られる。例えば、身体障害者の場合、「仕事にやりがいが感じられ、かつ自分の障害にあった仕事ができ、妥当な賃金が得られること」といったニーズが高い。一方、精神障害者の場合は、「作業、レクリェーション、生活指導を通じた仲間作り、対人関係の改善、作業能力の向上」や「一定期間の社会復帰プログラムを経ての一般就労」などを求める声が大きい。したがって、三者を受け入れるにあたっては、これらを含むさまざまなニーズに応え得るような活動を展開していかなければならない。こうした多様なニーズへの対応の方法として考えられることは、ひとつの福祉エリアの中に同様なサービスが複数存在している状況があれば、それぞれのサービスごとに自らの強みを生かして差別化を図ることで、より利用者のニーズに合ったサービスを提供するということである。例えば、病院退院後なかなかみつからない社会の接点となる事業所、障害の重い方々の療育をする事業所、将来の地域生活に備えた多様なプログラムを展開する事業所、一般就労につなげるための通過型の事業所など、地域の中にはさまざまな特長を持つ事業所が存在する。そこで、一事業所で全てを担おうとするのではなく、事業所機能の共有化の中で対応していくということである。一方、就労継続支援事業においては、利用者に対し、より多くの賃金保障が求められている。そこで、事業所は社会の経済動向や地域の産業構造などを俯瞰的な視点でとらえながら、作業種目について検討する必要があるだろう。そのような過程を通じてより付加価値の高い作業を導入することが求められる。また今年7月、厚生労働省は、障害者の法定雇用率が未達成の企業に課される納付金の支払い義務を、これまで免除されていた中小企業にも拡大する方針を固めた。こうした施策を追い風として一般就労に向けた支援を積極的に展開していくことも求められる。
次に、専門性の確保についてであるが、かつて私は米国の福祉現場を訪れたことがある。そこでは福祉の専門家がサービスマネジメントを担い、直接支援は、福祉従事者研修を専門とする会社でのOff-JTと、事業所内でのOJTにより十分なトレーニングを積んだ非専門家が担っていた。私は、日本においても、今後は社会福祉士や精神保健福祉士といった専門職が「福祉の従事者」をリードする体制を作り上げていくことが三者の受け入れをより可能ならしめるのではないかと思う。そこで、福祉エリアの中で、複数の事業所が共同でマンパワーの確保、職員研修などを行い、専門職においても共有化を考えていくこともひとつの方法ではないかと思う。
このように、多様なニーズへの対応においても専門性の確保においても、福祉エリア内の共同・協働が極めて重要な意味を持つ。そうした点では、地域自立支援協議会がその核となることで、密接な情報交換のシステムを作り上げることや、共同で事業を企画することなどが求められるだろう。
以上述べたように、全国の事業所がそれぞれの地域においてこうした視点で事業を積極的に展開していけば、誰もが身近な地域で必要なサービスが利用できるシステムが実現する。これこそが、ICFの理念にも則った障害者自立支援法が描く今後のわが国の障害福祉制度ではないだろうか。
しかし、そこには当然のことながら、財源の保障が不可欠である。新事業体系に移行することにより事業所が大幅な減収となるような状況では、いかに理念が素晴らしかろうと、それでは単なる画餅に終わってしまいかねない。厚労省が昨年5月に発表した「社会保障の給付と負担の将来見通し」によると、わが国の社会福祉費の対GDP比は2.9%であり、スウェーデンの4分の1以下、フランスやドイツの約3分の1、イギリスの半分以下と国際的にも極めて低い水準となっている。私は官民が一体となって障害福祉制度の再構築を実現させるためには、国は事業者に対し適正な給付を保障すべきであると思う。

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