Qualification acquisition support

各大学視察報告

マドリード自治大学

マドリード自治大学における知的障害者の受け入れ

2019年2月15日、ヨーロッパ視察の2番目の視察先として、スペイン・ マドリードのマドリード自治大学を訪問した。ここでは、マヌエル・アルバロ 博士・学部長、ベアトリス博士、マンゲーダ国際化担当副学長、エングラシ ア・アルタ博士、イエス・マンソ博士(プロメンタープログラム助教)らから 話を聞いた。

1 プロメンタープログラムの概要

プロメンタープログラムは、主にダウン症のある子どもたちが通っている小 学校で始められたプログラムを、この大学に導入することにより始まった。大 学でこのプログラムを受講する学生の障害にはダウン症のほか、知的障害、自 閉スペクトラム症なども含まれる。

プロメンタープログラムは、ヨーロッパでは非常に画期的なプログラムであ る。この大学で始まったものだが、すでにスペインはもちろんルーマニア、イ タリアの3か国で導入されている。今後は、導入大学間で学生たちの単位互換 が可能となるようにしたいという。さらに、プログラムを卒業した学生がほか の国に行って、そこの子どもたちを支援するようになることを願っている。

このプログラムは、「プロデス基金」という大きな団体の傘下のプロジェク トの1つで、ダウン症や障害のある学生たちが大学へ進学できるように手助け をするプログラムでもある。基本は、インクルーシブの枠組みとして取り組ん でいる。

プログラムは2005年にスタートした。その後13年間の間にプログラムの 内容も変化していった。2018年に120単位が認められるようになった。おお むね1年に60単位という設定のため、大学の2年分に該当する。

1学年定員15人がこのプログラムで学んでいる。2016年にはすでに161 人の学生がこのプログラムを受講した。

なお、スペイン各地の大学がプロメンタープログラムに興味を示している。 視覚障害のある人を対象としたプログラムには、17の大学が興味を示してい る。

2プロメンタープログラムの内容

プロメンタープログラムでは1年次と2年次に、主に人間関係に焦点を当て たコミュニケーシンスキルを学ぶ。

1年次には基礎理論を学び、2年次にそれを実践するという流れになってい る。たとえば病院などいろいろなところに行って実践するプログラムが、2年 次には組まれている。2年間のさまざまな活動を通して、アカデミックな部分 だけでなく、さまざまな現場での体験学習を実践するのである。また他大学の 学生との交換留学にも取り組んでいる。

なお、コースそのものは2年だが、その後に1年継続もできるシステムに なっている。そのため全員が3年目に進んでいて、3年目で就職活動支援を 行っている。

この3年次には、「プロデス基金」の関連企業などで実習できることが約束 されている。座学ではなく、実際に病院などに行って就労体験をするのである。

3 プログラム参加学生の卒業後

 3年間のプログラムを終了して卒業した学生は、95%が就職している。この 事実からすると、このプログラムは見事に成功しているといっていいだろう。

自力通勤が困難だったある卒業生は、最初こそ支援者がいっしょに通勤して いたが、支援の比率がだんだん少なくなり、最終的には1人で通勤できるよう なった。

卒業生の就職先の職種は事務関係が多い。学校やショップなどで働いている 人もいる。

4 プログラムの運営費

プログラムの運営費は、「プロデス基金」により賄われている。この大学は 市立大学であるから、市からの援助金もある。

障害学生の学費は、15人中13人が一般の学費とは比較にならないほどの少 額を負担している。残る2人の学生は奨学金を受けている。「プロデス基金」 が学生各自の家庭環境を調査し、その結果をふまえて負担額を決めている。

5 入学選抜

大学の入学選抜は、毎年約400人が応募し、そのなかから試験を通して定員 の15人に絞り込まれる。プロメンタープログラムは個人に焦点をあてたプロ グラムであるため、15人しか受け入れられないのである。

選考基準の1つは、キャンパスに1人で来られることである。これは、途中 で通学支援がなくなって大学に通学できなくなり、プログラムを中退すること がないようにするためである。

選抜試験の方法は、400人の応募者とその家族との個別面接である。プログ ラムを成功させるために家族の協力が不可欠なため、家族とも会う必要がある。

>6 実際の授業

 プロメンタープログラムは、4つエリアに分かれて授業が行われている。

 Aエリアでは、iPadを使用して情動についての教育を行っていた。学生たち が読んでいるのは、教員が作成したプログラムである。情動や心の動きについ て勉強するのは、他者とのコミュニケーションを行う際、喜怒哀楽など表面か らは見えない心の部分が非常に大切だからである。

 Bエリアの学生たちは、ヨーロッパ市民ということについて勉強していた。 学生たちのなかにはトルコやフランスから来た人などもいるため、それぞれの 情報を共有しながらヨーロッパ各地のことを勉強している。授業には、トルコ 出身のボランティア学生も加わっていっしょに学習している。

 学生たちに「どんなことを目標にこの大学に入ったのか」という質問を投げ かけた。

 Aさんは「よりよい人間になるために、また友達をつくるために大学に通っ て学んでいます。2年生はあと5か月でこのクラスが終わります。その後は、 マスタークラスに行って仕事をします」と答えている。

 Bさんは「数学の勉強をしています。ユーロからほかの紙幣に換算する数学 の勉強を、ゲーム形式でやっています。このソフトはとても高額なものです。 このプログラムはこの大学の先生によって開発されたオリジナルです。外貨の 交換や、おつりをいくらわたすかなど難しい授業をしています」との答えで あった。

 教育学部のCさんは「教育実習中です。将来ここの先生になりたいです。い ま卒論の発表の前段階なので、情報収集とどんなふうにまとめるかをここで やっています。トレーニングを毎週していて、それが早くできると、先生がい ろいろなところを直してくださいます。今週やったことをもとに、それをどう したら改善できるかということを出し合い、来週に改善策を話し合うことに なっています」と話していた。

 それぞれの学生は、自分でテーマを決めて研究し、卒業論文を書いていた。 そこで「何をテーマに研究しているのか」を質問した。それぞれ次のような回 答であった。

 先のCさん:「インクルーシブ文化というのがメインテーマで、美術館にお いていろいろな能力が違う人をどのようにして呼び込むかという内容について 研究しています」

 Dさん:「多様な価値観について研究しています。自分の価値観、ここに来 ていることの価値について卒論を書いています」

 Eさん:「いろいろな段階において、どのようにして仕事を探して行くかと いうのが卒論のテーマです」

 Fさん:「会社において、どのような感情をもって仕事をするかという、仕 事におけるエンパシーのことが卒論のテーマです」

 各学生とも、しっかりとしたテーマで研究していることがうかがえた。次に、 将来就きたい仕事について質問した。

 Aさんは「レストランで働きたいです。クッキングが好きだからです」と、 Bさんは「サマーキャンプなどのスーパーバイザーの仕事をしてみたいです」 と、それぞれ答えていた。

 2年生になると卒論と職業訓練が両輪になり、学生たちは非常に忙しくなる という。

 このプログラムが始まった当初、それが大学のなかで認知されるのが非常に 大変であったようだ。教員たちが、知的障害者にどうやって教えていけばいい か分からなかったからである。そこで、「自分は教えてもよい」というボラン ティアの教員約10人で教えていた。その後、支援する教員のトレーニングも、 この大学のプログラムで行うようになった。

 3年間のプログラムを経て卒業した人たちも、年に何度か大学に来て交流し ている。卒業生と大学との関係が切れることがないように配慮している、との ことであった。

7 リサーチグループの活動

 リサーチグループでは、2人の教員が中心になってプロメンタプログラムの シラバス(計画)を作成している。これに対しては、大学の評価期間によるバ リデーション(評価検証)がある。シラバスを作成するにあたり、同じスペイ ン語圏のチリとアルゼンチンの大学に視察調査にも行っている。

 リサーチグループは15人の研究メンバーで構成されている。実際に関わっ ている教員のほか、学生も参加している。

 学生の卒業後の就職のためにも、企業の人たちにインクルーシブの教育を理 解してもらうためにも、企業に対して支援することが必要である。また就職の ために自信をつけるだけではなく、ティーチングのバリエーションも広げて、 社会全体を通したすべての分野で自信がつけられるようにも留意している。

 また、スペイン語圏のチリとエクアドルの大学とで共同研究を実施した。卒 業後の就職先での追跡調査である。

 それによると、卒業生173人のうち、75%は普通の企業に就職しているが、 25%は福祉作業所で支援を受けながら働いていた。職種は、事務的なアシスタ ントが多い。調査方法は、52人の卒業生とその就職先の会社への聞き取りで ある。就職してから1回だけではなく、段階を経て継続的にリサーチを行って いる。その結果、彼らが特に優位だったことは「責任」「意欲」「スキル」の3つであった。

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