特別支援学校卒業後の「カレッジ」

はじめに

福岡県に法人本部を置く社会福祉法人鞍手ゆたか福祉会は、1992(平成4)年より、知的障害者を対象とした通所施設、入所施設、グループホーム、相談支援センターなどを開設してきた。 近年では、主に特別支援学校高等部卒業生を対象に青年期の学びを保障しようと、障害者総合支援法を活用した専ら学びの活動を行う事業所「福祉型専攻科」を、2012年に「カレッジ福岡」、2013年に「カレッジながさき」、「カレッジ早稲田」(東京都新宿区)、2014年に「カレッジ北九州」、「カレッジ久留米」と県域を越えて設置運営してきている。

1 青年期知的障害者の学びの現状と「カレッジ」設立の目的

本年1月20日、わが国は障害者権利条約を批准し、政府は原則、障害のある人にない人と同じ権利を保障する義務を負うこととなった。条約第24条「教育」第5項には、「締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。」(傍点筆者)と謳われている。そうした中、一般の高校卒業生の約7割が大学や短大、専門学校などに進学している一方で、知的障害特別支援学校高等部卒業生の進学率は1パーセントにも満たないという大きな格差が存在している。健常の青年たちの多くが、大学などにおいて仲間との関わりを通じて様々なことを体験し、青春を謳歌しながら、子どもからおとなへ、学生から社会人へという人生の大きな節目を乗り越える中で、ほとんどの知的障害者は、高等部卒業後、一般就労か福祉サービス利用かという二者択一の道しかなく、進学という選択肢やモラトリアム(自分探しの時間)は準備されていない。現在、高等部専攻科が設置されている知的障害特別支援学校は全国に9校あるが、近年、青年期の学びの場は、学校現場よりもむしろ福祉現場において広がりを見せており、「福祉型専攻科」は、2014年現在全国に約20ヶ所開設されている。このことは、学校教育に限らず福祉的支援においても、人としての成長と自立の土台を育むには「学び」を取り入れることが不可欠であるということがより一層認識されてきたからに他ならない。「カレッジ」も、このような青年期知的障害者の学びの現状をふまえ、彼らの学習権を保障することを目的として設立した。

2 「カレッジ」の教育システムと教授の内容

「カレッジ」の修業年限は、前半2年間の「自立訓練(生活訓練)事業」と後半2年間の「就労移行支援事業」を組み合わせた4年間である。修業年限を4年制とした背景には、知的障害者の人たちは発達が緩やかだからこそ、ゆっくりと時間をかけて学んでほしいということがある。修業年限が短いと、どうしても卒業後の進路先の確保や職業生活に直ちに役立つ技術の習得を優先せざるを得ず、就労には直接は結びつかないが、社会で生きていく上では必要不可欠な様々な教養や知識の習得、多様な社会体験がなおざりになってしまうのである。  「カレッジ」の教育目標は、①生きるために必要な力や人生を楽しむ力、忍耐・努力する力の育成、②個性や自主性を伸ばし、伝え合う力や協調性の育成、③社会で生きていく能力と意欲の育成である。目標達成のプロセスは、まず周囲の人との関わりを通じて相互理解、相互尊重を促し、相互承認の関係を確立させる。さらに、学生たちの努力への適正な評価や賞賛を通じて、自尊感情、自己効力感、楽観性、感情コントロール力を育てる。それらを土台に最終的には社会のどんな荒波にも耐えうる力「レジリエンス」(逆境力・折れない心)を獲得させる。  1・2年次の教養課程では、普通科と生活技能科の2コースを設けている。普通科の授業は、生活・教養、経済、労働、ヘルスケア、文化・芸術、スポーツ、基礎学力、自主ゼミ、資格・検定など10教科で、社会生活を営む上で必要とされる様々な知識・技術を身につけると共に、豊富な社会的活動を体験する。一方、生活技能科は、障害の重い人を対象としており、身の回りにある身近な材料を使ってワクワクドキドキするような楽しい授業で、生活に関連することを実体験や視覚優位の教授方法を多く取り入れて学ぶ。3・4年次の専門課程では、就労に向けた様々な職種について学ぶ中で、自分の興味や適性、能力にマッチした仕事を選択するとともに、特に4年次はインターンシップを中心に「職場実習→振り返り→課題克服→職場実習」のサイクルを繰り返す中で、徐々に仕事に対する自信と意欲を培っていく。また、キャンプや登山などの年間行事も学びの題材ととらえ、インターネットでの情報収集やスケジュール作りなど、できる限り学生たちによって進められ、お互いに納得がいくまで話し合いを深めていく。

3 学びを通しての学生たちの成長

「カレッジ」に入学してからの学生たちの成長には目を見張るものがある。学生たちは、日々の活動を通して、自分を表出することへの恐怖心をなくし、自分の意見を述べたり、選択したり、わからないことを積極的に尋ねる等の姿が随所に見られるようになった。また、学習の過程で自分を冷静に受け止め、努力や忍耐の仕方を身につけてきている。さらに、教員や他学生との関わりを通じて、視野の広がりや、自己認知の変化を習得してきている。一方、彼らの行事やイベントに取り組む姿勢はとても意欲的であり、役割を任せられると強い責任感を持って取り組む姿も見られるようになった。特にマラソンやワープロ検定など努力を積み重ねる学習に対しては充分に力を注ぐ傾向が見られる。まさに、将来、社会人として生きていく上で不可欠な主体的に生きる力や意欲、心のたくましさと青年らしいしなやかさを身につけている。

おわりに

まずは全国の特別支援学校高等部卒業生がどこで暮らしていても学びの選択が可能となるよう、未だ専攻科が設置されていない地域に「福祉型専攻科」を設置することで青年期知的障害者の学びを保障すべきだと考える。さらに今後は、これからの障害者権利条約時代を見据えた教育年限延長としての高等部専攻科の拡充や、福祉と教育の連携による知的障害者の生涯学習の権利保障のより一層の推進を願っている。