カレッジ福岡の教育実践の取り組みと今後の課題

カレッジ福岡は、高校を卒業した知的障がいや発達障がいのある人たちの学びの場として、この3月にスタートしました。制度上は、障害者自立支援法の自立訓練事業として位置づけられます。4年制の学校で、現在は5名の学生が学んでいます。カレッジ福岡の校舎は、福岡市東区の一角にある流通団地の中のビルです。  ここでは、「生きることに必要な能力や人生を楽しむ能力、忍耐・努力する能力を身につけること」「個性や自主性を育てるとともに、伝え合う力を高め、協調性を養うこと」「社会で生きていく能力と、社会で生きる意欲を育てること」の三つを教育目標に掲げ、「ホームルーム」「ヘルスケア」「労働」「自主ゼミ」「文化芸術」「生活」「経済」「一般教養」「スポーツ」「資格・検定」の10教科の授業を行っています。1、2年を「教養課程」と位置づけ、社会生活を営む上で必要とされる様々な知識を身につけたり豊富な生活経験を体験します。また3、4年は「専門課程」と位置づけ、将来の就労に向けて、社会に存在する様々な職業の存在や内容を知る中で、自分の興味や関心、適性や能力にマッチした仕事を選択すると共に、短期(1週間程度)・中期(2週間程度)・長期(1ヶ月程度)職場実習の体験とフィードバック、課題の克服を繰り返す中で、徐々に、仕事に対する自信と意欲を培っていきます。  授業では座学のみならず、様々な実体験を通じての学びを大切にしています。例えば、月2回の調理体験プログラムでは、「ヘルスケア」で献立づくりを通じた食のバランスについての話し合い、「経済」で調理食材の予算立て、「労働」で食材の買い出しと調理、「一般教養」で献立や予算立て、調理の味付けなどについての振り返りのグループディスカッションを行います。また、キャンプや登山などの年間行事も学びの題材としてとらえ、インターネットでの情報収集やスケジュール作りなど、できる限り学生たちによって進められ、お互いに納得がいくまで話し合いを深めます。  カレッジ福岡では運営において、「福祉」と「教育」双方の専門性が必要であると考えているため、教員は教育畑と福祉畑から採用しています。教育畑からは、特別支援学校教諭免許等所持者を3名、福祉畑からは、児童自立支援施設や知的障がい児施設等での支援員経験者を2名採用しています。  大学との連携については、福岡教育大学で障がい児教育についての教鞭をとられている猪狩恵美子先生に常日頃からご指導をいただいています。また、先生のゼミの学生さんたちとは、同世代の学生同士として交流活動を行っています。  カレッジ福岡は、オープンして9ヶ月ですが、その間に学生たちは大きく成長しています。  Iさんは、入学当初は人との関わりをあまり持とうとしなかったため、人に対する関心を持ち、対人関係スキルを高め、コミュニケーション能力をつけてほしいと考え支援をしてきました。最近では、教員が冗談を言うとすぐに笑いながら返してきたり、自分の意見を積極的に言うようになり、他者をリードする場面が増えてきました。  またK君は、マナーがまったくできていなかったため、社会性と対人スキルを身につけてほしいという願いを持って支援してきました。彼については、職員を含め、人を信頼するという点でとても時間がかかりましたが、半年が経過し、教員のアドバイスなどをようやく聞けるようになりました。また、冷静さや自己を客観視する力、自己肯定力を身につけてほしいという教員の願いに対して、最初の頃は、授業に対し、消極的、否定的で、情緒にも大きなムラがありましたが、最近では、情緒も安定しており、授業の中で自主的にメモを取るようになったり、わからないところを素直にわからないと尋ねてくるようになるなどの主体的な行動が見られるようになりました。  Mさんは入学当初は何事にも無気力だったので、積極性を身につけてほしいという思いで教員は彼女に向き合ってきました。当初は、「どっちでもいい」「みんながそうしたいのならそれでいい」といった発言ばかりが聞かれましたが、最近では自分の意見を言ったり、自分の知識をみんなに伝えたりといったことが増えてきています。そうした中、自分に自信がつくことで、人に対しても優しく接することができるようになってきています。教員は、「Mさんは、以前に比べ笑顔が5倍に増えた気がする」と言っていました。  S君に対しては、自己認知や他者への理解を深めてほしいという願いを持って関わってきました。 現在では、自己に対する過大評価から、本当に得意とか実は得意ではないなど、自分の力を知りつつあります。みんなにもできることとできないことがあり、自分にも絵や歌など得意なことがあり、苦手なこともあるなど、自分や他者のことをより客観的に認識できるようになってきています。  Yさんについては、教員は、精神的に不安定な時やイライラしている時も、授業や人間関係に対して投げやりになるのではなく、粘り強く努力するようになってほしいとの願いを持っていました。最近では、嫌なことでもしなければならない時があることが理解できてきています。粘りがなく、すぐにあきらめて放り出すことが多かった彼女が、自主ゼミの時間の研究発表で、一生懸命に努力して自分で調べたことを人前でしっかりと発表した姿には私も感動を覚えました。  カレッジ福岡もスタートしたばかりで、日々試行錯誤を繰り返しながら実践しているというのが実状ですが、私たちは今後の課題として以下の5つのことを克服していきたいと考えています。  第一に、教員としてのスキルの向上です。高等部卒業後の学びの場は全国にも数が少ないためマニュアル等も少なく、また教員も知識や経験が浅いため、何もないところからの指導案の作成がとても大変です。「どんな流れにするか」「どんな手立てがあるか」「この単元についてどんな情報を伝えればよいか」「どんなふうに視覚的・体験的な手立てを取り入れることができるか」などを考えることとともに、「教材を作る」というところがさらに大変で、ひとつの指導案に少なくとも4、5時間をかけています。こうした負担を軽減するためにも、今後は教員としてのスキルの向上が不可欠です。  第二に、特別支援学校高等部との連携です。私たちは、カレッジにおいて、高等部で学んだこととつながったことを教えないと意味が薄れると考えています。例えば、カレッジの授業でやった内容が、「実は、高等部ですでにより詳しい内容でやったことがあった」ということも何度かありました。そうした点で、今後は高等部との連携を深め、系統的、有機的なカリキュラム編成が必要だと考えます。  第三に、実績を作っていくことです。まずは、学生たちにカレッジで学ぶことに満足してもらえることが一番です。そのためには、学生個々人のニーズにしっかりと向き合い、そこからカレッジのあり方を突き詰めていくことが必要です。カレッジで学んだ学生たちが社会へ歩みを進めていくという実績を作っていくことで、社会的な認知と存在価値が高まっていくと考えます。なお、カレッジ福岡では、重度者の利用ニーズに応えるため、来年度よりB組(重度クラス)をスタートする準備として、この10月より週一回、療育手帳A判定の方3名を対象にしたクラス運営を試験的に行っており、現在、教科の構造やカリキュラム内容等の検討を進めています。  第四に、他団体との連携の強化です。全国の専攻科やフリースクールなど、共通の目標や理念を持って活動しているところとの連携が必要だと考えています。青年期障がい者の学びの場の重要性について共同して国などに働きかけることができれば、国民の認知度も高まり、共生社会にまた一歩ずつ近づいていくと考えます。  第五に、カレッジ福岡での取り組みや活動内容等の情報をより広範に発信することです。しっかりと地域に根を張っていきながら、高等部の先生方や保護者等とのつながりを深め、カレッジの取り組みを積極的にアピールしていく中で必要性を理解していただき、信頼を得ることが必要です。そうすることによって、「評判」によって、入学を希望する学生も集まってくると思われます。   私たちはこれらの課題を乗り越えながら、まずは、九州各県にカレッジを設立したいと考えています。その第一歩として、平成25年3月に長崎県大村市に第一の姉妹校「カレッジながさき」を開設します。また、数年後には、カレッジを学校法人化し、高等部3年と専攻科2年の5年一貫教育の私立特別支援学校を設立したいと考えています。  以上、発表では、カレッジ福岡での具体的な教育実践の取り組みの内容と学生たちの成長、そして運営面での今後の課題について報告させていただきます。皆様からのご助言や意見交換から今後の実践や運営に向けて大いに学びたいと考えております。よろしくお願いいたします。