「青春を謳歌したい」「もっと学びたい」という想いに応える福祉型大学「カレッジ」

カレッジ福岡 第1期卒業生3名 希望の会社に就職

2016年春、「カレッジ福岡」から3名の第1期卒業生が社会に巣立っていきました。将来、医師になることを夢見る松本さんは地元の総合病院「水戸病院」の看護助手に、佐藤さんは事務機器の総合商社「レイメイ藤井」に、そして車が好きな小島さんはホンダ自動車の販売店「ホンダカーズ」に就職を果たしました。4月1日付で就職の内定をもらった3名はその喜びをかみしめながら、3月中旬支援教員と共に3泊4日の台湾卒業旅行を楽しみました。  カレッジ福岡は、法制度上は障害者総合支援法にもとづく自立訓練(生活訓練)事業と就労移行支援事業を組み合わせた多機能型事業所です。福祉サービスを大学に見立てたものであるため、私たちはこれを「福祉型大学」と呼んでいます。修業年限を4年間とし、前半2年間の自立訓練事業を「教養課程」、後半2年間の就労移行支援事業を「専門課程」と位置づけています。そこでは利用者を「学生」、支援員を「支援教員」、訓練室を「教室」と呼んでいます。また学生個々人の障害特性に対応した支援と、豊かな学びを提供する教育の双方を大切にした取り組みをめざしているため、私たちはその実践を「支援教育」と呼んでいます。

カレッジ運営法人「鞍手ゆたか福祉会」の紹介

社会福祉法人鞍手ゆたか福祉会は、1992(平成4)年4月に福岡県鞍手町で事業を開始しました。2016年現在、福岡県内を中心に、長崎県、東京都などで約30カ所の障害福祉サービス事業所や老人デイサービス事業所を運営しています。利用者の人数は法人全体で約1300名、職員数は約240名です。  当法人が2012年度から積極的に展開している事業がカレッジです。現在、カレッジ福岡(福岡市)、カレッジ北九州(北九州市)、カレッジ久留米(福岡県久留米市)、カレッジながさき(長崎県大村市)、カレッジ早稲田(東京都新宿区)の5か所を運営しており、2016年春、5つのカレッジで新入生を40名迎え、学生数は合計120名となりました。

カレッジの概要

現在、ほとんどの特別支援学校高等部卒業生の進路は、企業などに就職するか、就労継続B型事業所などの福祉サービス事業所を利用するかのいずれかです。カレッジはそのいずれでもなく、彼らが社会に巣立つ前に4年間かけてしっかりと人間発達を目指す学びの場として位置づけています。カレッジにおいて学生たちが達成すべき目標は、①子どもから大人へ、学生から社会人へのスムーズな移行、②仲間たちとともに青春を謳歌し、充実した青年期を体験、③各自の個性や長所を伸ばし、豊かな人生を送る基礎の形成、④職業生活、自立生活を送るためのスキルの獲得です。  1・2年次の教養課程では、「ホームルーム」「文化・芸術」「資格・検定」「自主ゼミ」など10教科を学びます。授業は午前午後にそれぞれ1コマ90分で1日2コマ、その他に朝の授業前に「健康つくり」、午後の授業後に「自主学習」の時間をそれぞれ30分間設けています。3・4年次になると、「店舗実務」「介護実務」「厨房実務」「物流実務」などの就労実務の教科が約6割を占めるようになります。また、3年次は様々な職場や職種の体験を目的としたインターンシップを、4年次は就職内定に向けた就職希望先企業でのインターンシップを行います。 「資格・検定」の授業では、パソコンスピード検定、漢字検定、電卓検定など、各学生が自ら資格取得に向けた目標を立てて検定試験に挑戦しています。精一杯頑張った結果みごとに合格した人、頑張ったにもかかわらずわずかな点数が足りず不合格だった人、それぞれが、喜びを力に、悔しさをバネにして一歩ずつ着実に前に進んでいます。  通常の授業の他、年に数回、外部から特別講師を招いて様々な「特別講座」を行っています。これまでに地元の陶芸家による「陶芸講座」、喫茶店のマスターによる「コーヒーの淹れ方講座」、プロの鍵盤ハーモニカ奏者による「鍵盤ハーモニカ体験講座」などが行われました。  また、カレッジでは、同世代の学生同士の交流として近隣の大学生との交流活動を積極的に行っています。カレッジ福岡は福岡教育大学、カレッジ久留米は久留米大学、カレッジ早稲田は早稲田大学などと交流しています。2015(平成27)年4月2日には、早稲田大学記念会堂で開催された早稲田大学入学式に、カレッジ早稲田の新入生、在校生、保護者ら約30名が招待されました。学生たちは、厳かな入学式に緊張感をもって参列していました。知的障害者の大学受け入れは、カレッジの学生にとっての意義だけではなく、インクルーシブな大学づくり、大学生の障害者理解の促進、地域に開かれた大学づくりなど、大学側にとっても大きな意味があると考えています。 カレッジにおいて、学生たちが主体的に取り組む教科のひとつに「自主ゼミ」があります。毎年年度末に行われる「カレッジ研究論文発表会」に向けて、学生たち全員が1年かけて論文作成に取り組みます。まず自分の研究テーマを決め、章立てや論文骨子を考えます。そして本やインターネットで調べ学習を行い、「はじめに」から「第1章」「第2章」と書き進め「おわりに」で結論や考察を述べ論文を結びます。さらに論文完成後は、論文発表会でプレゼンをするために、学生たちは5分間という持ち時間で自分の思いを的確に伝えるための論文の要旨をまとめたパワーポイントを作成します。年が明ける頃には、学生たちは、論文発表会までのカウントダウンの日めくりカレンダーを見ながら、「あと何日しかない」と常に焦りを感じながら、寝ても覚めても論文発表が頭から離れないくらいに努力を積み重ねます。発表練習も納得がいくまで何度もリハーサルをします。そうして1月に各カレッジで予選会が行われ、予選を通過した合計10名の学生たちが福岡で開催される本選に出場します。発表者の中から最優秀賞や優秀賞が選ばれます。  学生たちの研究テーマは、『さぬきうどんの歴史』『ローマ帝国について』『AKB48』『お勧めのデートスポット』など自分自身が興味あることや、『第五脊椎分離すべり症』『私のダイエット計画』『僕とお金と障害と』『自分の成長、将来』など自分自身を見つめ直した内容のものなど様々です。それぞれの論文は、学生たちの個性や豊かな感性、未知の世界を知ろうとする真摯な思いに溢れています。  学生たちにとって、1年という長いスパンで自らの目標の達成に向けて、仲間と支え合い励まし合いながら論文を完成させる体験は、彼らのそれまでの人生の中でもおそらく最も充実した日々となっていることでしょう。さらに論文発表会で、大勢の観客の前で堂々と自分の研究成果の発表を成し遂げることは、彼らにとって大きな自信となり将来の人生の糧となっていくに違いありません。  また、カレッジの取り組みのひとつに、毎年10月中旬に法人本部のある福岡県鞍手町で開催される法人のおまつり「ゆたかサンフェスタ」への参加があります。そのときは、カレッジ早稲田の学生たちも3泊4日の行程で空路福岡を訪れます。まつりでは、5カレッジの学生が一堂に会し、全員でステージに並んで大合唱。圧巻の舞台でまつりを盛り上げます。翌日には5カレッジ交流会が行われ、普段会うことのない他カレッジの学生との交流を深めます。学生たちは、同じ思いで頑張っているのは自分たちだけではないのだということを実感し、その後のカレッジ生活への意欲を高めそれぞれが帰路につきます。また、夏のキャンプや秋のスポーツ大会は九州4カレッジ合同で行います。 カレッジに入学してからの学生たちの成長には目を見張るものがあります。学生たちは、日々の活動を通して自分を表現することへの恐怖心をなくし、積極的に自分の意見を述べたり、わからないことを積極的に尋ねたりするなどの姿が随所に見られるようになります。また学習の過程で自分を冷静に受け止め、努力や忍耐力を身につけていきます。さらに支援教員や他学生との関わりを通じて自己理解を深めます。また行事やイベントに取り組む姿勢はとても意欲的で、役割を任せられると強い責任感を持って取り組む姿が見られるようになります。特に、マラソンやワープロ検定、登山など、ある程度の月日をかけて日々努力を積み重ねる学習に対しては十分に力を注ぐ傾向が見られます。  カレッジでの学生の成長の背景のひとつに先輩後輩の関係があります。入学後1年を経過すると後輩ができます。彼らは後輩に慕われ尊敬さる魅力的な先輩になりたいと思うようになり、そのことが様々な場面での好ましい振る舞いや面倒見の良さ、優しさなどの行動の動機付けになっているようです。その結果、卒業を迎える頃には入学時の刺々しさや投げやりな態度はなくなり、誰からも愛される穏やかでとても好感のもてる若者に変身していきます。

カレッジの今後の展望

私たちは、特別支援学校卒業後「もっと学びたい」と思っている知的障害者が、いつでもどこでも「学び」を選択できるよう、全国各地にカレッジのような知的障害者の学びの場が広がっていくことを願っています。  また私たちは今後、既存の大学のキャンパスを活用し、カレッジの授業を行いたいと考えています。既にアメリカやカナダでは知的障害者に対し大学の門戸が開かれています。日本においても障害者差別解消法が施行された中、知的障害者の高等教育保障が実現することを願っています。  2015年10月『知的障害者の大学創造への道』を出版しました。カレッジでの学生の様子や取り組みの詳細、青年期の発達の視点から見た学ぶことの意義、海外の状況などについて言及しています。是非ご一読ください。