知的障害者の青年期の学びの場「ゆたかカレッジ」

1.はじめに

「ゆたかカレッジ」は、特別支援学校高等部などを卒業した知的障害者のための学びの場である。現在、福岡市に「カレッジ福岡」、北九州市に「カレッジ北九州」など、福岡県、長崎県、東京都に6事業所を運営しており、2018年9月現在、合計180名の知的障害者が通いそこで様々なことを学んでいる。  ゆたかカレッジは、制度上は、障害者総合支援法における「自立訓練事業」と「就労移行支援事業」(各2年間)を組み合わせた4年間の多機能型福祉サービス事業所である。  アメリカやカナダ、オーストラリア、イギリスなどの大学では、知的障害者のための履修コースが用意されており、18歳以降も学びたいという知的障害青年の思いに応えている大学も少なくない。特にアメリカは、2017年の報告では、全米で270校の大学や短大が知的障害者の履修コースを設置している。  ゆたかカレッジは、日本においても一日も早くそのような社会環境ができることを願いこの事業に取り組んでいる。

2.青年期知的障害者の学びの現状と設立の目的

2014年1月20日、わが国は国連の障害者権利条約を批准した。本条約の第24条「教育」第5項には、「締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。」と示されている。そうした中、わが国においては、一般の高校卒業生の約7割が大学や短大などに進学している一方で、特別支援学校(知的障害)高等部卒業生の進学率は1パーセントにも満たないという現状がある。  また、人生100年時代といわれる今日、人としての自立と成長の土台を育む上で、青年期の学びは極めて大きな意味を持っている。健常の青年たちの多くが、大学などにおいて仲間との関わりを通じて様々なことを体験し、青春を謳歌しながら、子どもから大人へ、学生から社会人へという人生の大きな節目を乗り越えている中で、ほとんどの知的障害者は、高等部卒業後、一般就労か福祉サービス利用の道を選択し、進学、学びという選択肢やモラトリアム(自分探しの時間)の機会が限られている。  ゆたかカレッジは、このような青年期知的障害者の学びの現状をふまえ、彼らの学習権を保障することを目的として設立した。

3.ゆたかカレッジの教育システムと教授の内容

ゆたかカレッジの修業年限を4年とした背景には、知的障害者は発達が緩やかだからこそ、ゆっくりと時間をかけて学んでほしいということがある。修業年限が短いと、どうしても卒業後の進路先の確保や職業生活にすぐに役立つ技術の習得を優先せざるを得ず、就労には直接は結びつかないが、社会で生きていく上では必要な様々な教養や知識の習得、多様な社会体験がなおざりになってしまう。  ゆたかカレッジの教育目標は、①生きるために必要な力、忍耐・努力することができる社会人の育成、②個性や自主性が輝き、伝え合う力や協調性を持つ社会人の育成、③逆境力、折れない心(レジリエンス)を持つ社会人の育成である。  1・2年次の教養課程では、「一般教養」「経済」「ヘルスケア」「文化・芸術」「自主ゼミ」など10教科で、社会生活を営む上で必要とされる様々な知識・技術を身につけると共に、豊富な社会的活動を体験する。  一方、3・4年次の専門課程では、就労に向けて様々な職種について学ぶ中で、自分の興味や適性、能力にマッチした仕事を選択する。特に4年次はインターンシップを繰り返す中で、徐々に仕事に対する自信と意欲を培っていく。  また、キャンプや登山などの年間行事も学びの題材ととらえ、インターネットでの情報収集やスケジュール作りなど、できる限り学生たちによって進められ、お互いに納得がいくまで話し合いを深めていく。

4.学びを通しての学生たちの成長

ゆたかカレッジに入学してくる学生たちは、人とコミュニケーションを取ることが苦手な人が少なくない。余暇活動の計画立案などの話し合いの場面でも、それぞれが自分の主張を一歩も譲らないため話し合いがまとまらないとか、逆に意見を求められても「別にない」「勝手に決めれば」などと自分の思いを表出しないなどの姿がしばしば見られ、それらがトラブルに発展することもある。  そのような学生たちが、日々のディスカッションを通じて、入学後半年を過ぎた頃には、それぞれが相手の気持ちを察したり、お互いに譲り合ったりしてうまく合意形成ができるようになっていく。さらに2年生になると後輩ができる。そこで、上級生として後輩の世話を積極的にするようになったり、後輩に慕われるような先輩になろうと努力したりするようになる。一方後輩も先輩たちのようになりたいと良いところを学ぼうとする。このような先輩後輩の関係性を通じて双方が日々成長していく。3年生になると、自治会活動を担当し、カレッジ全体の世話をすることでさらに視野が広がっていく。このような3年間の日々の学びや仲間との関わりの中で培ってきた自信や自己認知力、コミュニケーション力などを糧にしながら、4年生になるとインターンシップが始まる。そこで、3年間で身につけてきたライフスキルやワークスキルが果たして社会で通用するものなのかを自ら試しながら、会社という実社会の中でさらに自己研鑽していく。  このようにして、学生たちは、将来、社会人として生きていく上で不可欠な主体的に生きる力や意欲、心のたくましさと青年らしいしなやかさを身につけている。

5.ゆたかカレッジの今後の展望

18歳以降、社会に出る前にもっと学びたい、自信をつけたいと思っている知的障害者は少なくない。そこでそのような思いに応えていくために今後もできる限り多くの地域にゆたかカレッジを広げていきたい。  また、より質の高い授業を行っていくために、専門家や研究者等と協働しながらカリキュラムや授業内容についての研究活動や公開授業等にも積極的に取り組んでいきたい。  また、一般の大学と連携して、大学生と知的障害学生が共に交流し、相互に成長し合う仕組みを構築していく。  そして将来的には欧米諸国のように大学が知的障害者の履修コースを設置することによる教育年限延長の実現に貢献していきたい。