これからの知的障害者福祉施策への提言~国に制度化していただきたい入所更生施設の再構築~

(2003年3月執筆)

平成16年2月、厚生労働省は、今後、知的障害者入所更生施設の新増設は、行わないことを宣言しました。今後は、障害者の暮らしの場として、グループホームを積極的に整備していくとのことです。しかし、それで果たして重度知的障害者の将来生活を見通すことができるのでしょうか。サンガーデン鞍手をみても明らかなように、入所更生施設は、障害者とその家族の生活を支える大きな社会資源となっています。もし、現在サンガーデンに入所している人たちを受け入れてくれる入所施設がなかったら、彼らの家庭は一体どうなっていただろうかと考えると、サンガーデンが開設できて本当によかったと痛感します。と同時に、これから先、養護学校と寄宿舎を卒業してくる人たちは、これからどこに行くのだろうと思うと暗澹たる気持ちになります。社会福祉基礎構造改革の中で、国は、施設型福祉から地域型福祉への転換を謳い、それを着々と具体化していっています。支援費制度により、ホームヘルプや短期入所が利用しやすくなったことやグループホームの開設数が大幅に増えてきていることもその現れです。
しかし、サンガーデンの入居者の状況を鑑みると、自閉症の人や行動障害のある人たちが、すぐにグループホームで暮らすということが非常に困難であるということは、正に現場の実感です。私たちは、サンガーデンが開設して約8ヶ月が経過した今、自閉症の人や行動障害のある人にとって、サンガーデンのような入所更生施設は多くの点でとてもすばらしいシステムであると感じています。今後、国には、既存施設の縮小閉鎖ではなく、サンガーデンのような入所更生施設を作ることを制度化していただきたいと思います。
これからの知的障害者福祉の方向は、施設の建設中止や施設解体よりも、下記のような施設再構築の方が重要ではないでしょうか。現存する人里離れた場所にある施設や箱型施設が、下記のような新しい基準に基づいた施設へと再構築されたら、障害者の入所施設での暮らしは決して不快なものではなくなるのではないでしょうか。サンガーデンの8ヶ月の実践がそれを証明しています。
現在のグループホーム制度では、1対1対応の必要な重度知的障害者がそこで暮らすことはできません。 ここに掲げた26項目の施設再構築案は、見方を変えれば、「重度知的障害者が地域で暮らすことを可能にするための、既存施設のグループホーム化」とも言えるのではないでしょうか。私たちが、制度化していただきたい入所更生施設のモデルとは以下のようなものです。
(1) 衣食住を共にする生活単位を、定員7名のホーム(一戸建て住宅)とすること。
(2) 4つのホームとそれを運営管理する管理センターをもってひとつの28名定員施設とすること。
(3) 4つのホームは半径10キロ以内に点在し、その中心部に管理センターを配置すること。
(4) それぞれのホームは、山奥などの人里離れたところではなく、街中に建設すること。
(5) 管理センターには、隣接して1つのホームを併設し、ショートステイや地域のホームでの暮らしが行き詰まった入居者を緊急一時的に受け入れる場とすること。
(6) 上記のような施設配置が困難な場合は、同一敷地内で互いに隣接して建設することも可能とすること。
(7) ホームは、火災防止のため、耐火構造を原則とするが、それが物理的に困難な場合は、オール電化システムとすること。
(8) ホーム内の居室は全室個室とし、その広さは6畳以上とすること。
(9) 家具や寝具等は、すべて個人の持ち込みとし、居室のスペースは、施設ではなく個人の所有とすること。
(10) ホームでは、厳密な日課を決めずに、食事、入浴、就寝、起床等の時間をできるだけフレキシブルにすること。
(11) 支援スタッフは、各ホームに3人を配置し、正規の支援員1人と補助支援員(夜、朝各2人)とすること。
(12) 宿泊スタッフは、各ホームに2名とし、正規の支援員と宿直専門員が宿泊すること。
(13) 生活の場と日中活動の場を分離し、同一法人が、中軽度者のための通所授産施設と重度者のためのデイサービスセンターを地域内に設置すること。
(14) 上記通所授産施設とデイサービスセンターは、自宅からの通所利用者との共同利用とすること。
(15) 上記通所授産施設とデイサービスセンターの支援員枠で採用されたスタッフも入所更生施設の宿直のローテーションに入ること。
(16) 週末、家族の受け入れが可能な入居者は、本人の意思により実家への帰宅を基本とすること。なお、そのために施設は、送迎バスを運行する等の便宜を図ること。
(17) 施設入所者も、実家への帰宅時等において、必要であれば家庭でホームヘルパーを利用できるようにすること。
(18) 施設入所者も、週末などに居宅支援のガイドヘルプ制度の利用が可能になるようにすること。
(19) この施設の入居者は、自閉症や行動障害のある人、最重度の人、てんかん発作のある人など、家庭をベースとした生活が困難な人のみを入所対象者とすること。
(20) 施設の正規の支援員は、「社会福祉主事任用資格」有資格であることを条件とすることを法令で定めること。
(21) 支援員は、障害者の人権擁護意識、障害特性への適切な対応のための専門性等の職員研修を定期的に受講することを法令により義務づけること。
(22)都道府県は、上記職員研修の企画実施を社会福祉系大学に業務委託し、カリキュラムに基づき系統的に研修を受講させること。また、施設と大学等との交流を通じて、福祉の現場と学問研究の場との産学協同を推し進め、大学において福祉現場における処遇困難事例等の専門的研究を深めること。
(23) 上記のような設置・運営基準に必要な施設整備費、運営費(支援費)を国が法人に支給すること。
(24) 財政的事情により、施設再構築のために国県の施設整備費の補助を受けられない場合は、独立行政法人福祉医療機構の低利融資を容易に利用できるように特別措置を国が講じること。
(25) 施設再構築を法人が積極的に行うことを促すために、上記の入所更生施設を整備した場合、通常の支援費の単価に加算制度を設けること。
(26) 国家財政が危機的な現状において、障害者福祉の財源確保のために、介護保険制度への障害者福祉の参入を行うこと。
今、日本の知的障害者福祉は大きな岐路に立たされています。国の政策の方向は、地域福祉の名の下に、重度知的障害者とその家族の生きる道を失わせることになりかねません。社会福祉法(昭和26年制定)第6条では、「国及び地方公共団体は、福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策、福祉サービスの適切な利用の推進に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない。」とされています。
障害者基本法(昭和45年制定)の第4条には、「国及び地方公共団体は、障害者の福祉を増進する責務を有する」と国と地方公共団体の責務が義務づけられています。また、知的障害者の権利宣言(国連総会において昭和46年制定)では、「施設における処遇が必要とされる場合は、できるだけ通常の生活に近い環境においてこれを行うべきである。」と宣言されています。さらに、障害者の権利宣言(国連総会において昭和50年制定)では、「もし、障害者が専門施設に入所することが絶対に必要であっても、そこでの環境及び生活条件は、同年齢の人の通常の生活に可能な限り似通ったものであるべきである。」としています。
平成14年に閣議決定された「障害者基本計画」では、「入所者の生活の質の向上を図る観点から、施設の一層の小規模化・個室化を図る」とされています。平成不況による税収減にともない国家財政が逼迫している状況であるからといって、先の数々の法令に規定されている障害者の生存権を奪うことは決して許されることではありません。真に重度知的障害者とその家族が安心して将来生活を展望できる施策を提示し進めていくことこそが、これからのわが国の障害者福祉に求められていることではないでしょうか。