強度行動障害者対応ケアホーム支援モデルに関する調査研究

(2012年3月、「日本財団研究報告書」に掲載)

研究事業の経緯と内容

鞍手ゆたか福祉会が研究事業を行うに至った経緯

筆者の所属する社会福祉法人鞍手ゆたか福祉会は,1992年4月に知的障害者通所授産施設「鞍手ゆたかの里」の開設を皮切りに,2011年5月7月現在,日中活動系事業所4ヶ所,共同生活介護事業所(ケアホーム)6ヶ所,障害者支援センター2ヶ所,老人デイサービスセンター1ヶ所,居宅介護事業所1ヶ所の14事業所を運営している。事業所利用者は,約140名で,障害の程度は最重度から軽度まで様々である。その中でも,当法人では,支援の最も困難な行動障害を伴う重度自閉症の人たちへの支援のあり方を模索してきた。
筆者は,1995年,1996年,1998年と3度にわたって渡米し,アメリカの自閉症支援についての実践を学んだ。その中で,行動障害はその人が持って生まれたものではなく,適切な環境設定や支援によって軽減,消滅することを確信した。そのポイントは,「快適な環境」「本人主体」「科学的専門的支援」である。こうした仮説をもとに,法人では,それらの考え方を実践すべく,2003年に全国的にも珍しい「小規模完全分離型入所更生施設」を開設した。サンガーデン鞍手と命名されたこの施設は,ひとつの敷地の中に,7棟の建物が林立し,そのうち5棟が7名定員の生活ホームになっており,食事,入浴,団らんなどの一連の生活をすべて,そのホーム内でできるような設備が設けられている。この施設では,利用者の入所条件として,「行動障害」「睡眠障害」「無断外出」のうちいずれかの行動問題がある人という基準を設けた。その結果,37名中32名が行動障害のある人たちで占められ,施設開設当初は,常時,パニックや自傷行為,他害行為,物壊し等が頻発していた。しかしながら,少人数の暮らし,日課を決めない,できる限り規制や管理を排除した生活,手厚い職員配置,週末帰宅,退屈な時間を作らない配慮,行動障害の原因分析,利用者の人権を尊重した対応,職員間での支援方法の統一した対応などの取り組みにより,多くの利用者は,約1年で施設の中に自分の居場所を見出し,徐々に落ち着きを取り戻し,最も行動障害の激しかった利用者も約2年で平穏な生活を営むことができるようになった。
こうした状況の中,法人では,激しい行動障害のある重度自閉症の人たちの居住の場のニーズに応えるべく,2009年に,新たに強度行動障害者専用ケアホームを建設することとなった。(図1参照)ホームを開設するにあたって,入所者が新しい生活環境に適応するまでには,極めてきめ細かい支援体制が必要であるということで,このケアホーム事業は,福岡市障害福祉課と福岡市強度行動障害支援調査研究会と社会福祉法人鞍手ゆたか福祉会の三者の全面的な協力関係により進められることとなった。
なお,手厚い支援体制と高度な専門性に基づく適切な支援を進めて行くには,かなりの費用がかかる。そこで,日本財団に研究助成費を申請したところ,事業の意義や趣旨を理解され,助成金が配分されることが決まった。
こうして,2009年9月から2010年11月までの1年3ヶ月間にわたって研究事業が行われた。

研究事業の内容

この研究事業では,鞍手ゆたか福祉会の法人内ケアホーム移行支援会議が16回,福岡市強度行動障害支援調査研究会と合同で行われた移行支援会議が21回開催された。(図2参照)この事業のプロジェクトメンバーは,プロジェクト代表兼スーパーバイザーの西南学院大学社会福祉学部教授野口幸弘氏,スーパーバイザーとして,西南女学院短期大学講師の倉光晃子氏,福岡市障害福祉課より2名,福岡市強度行動障害支援調査研究会メンバー17施設から29名,そして鞍手ゆたか福祉会職員23名の合計56名で進められた。(表1参照)
利用者が入所する前の会議においては,利用者のアセスメントを丁寧に行い,受け入れ体制を慎重に協議しながら作り上げていった。また,利用者の入所後は,会議の中で,毎回,現 場から事業の進捗状況が報告
大学教授(1名,スーパーバイザー)
大学講師(1名,スーパーバイザー)
行政職員(2名,福岡市障害福祉課)
福岡市内施設職員(15事業所,29名)
鞍手ゆたか福祉会職員(6事業所,23名)
まず,2009年11月より,一人目の利用者A氏を受け入れた。宿泊は週2日からスタートし,A氏に対し,夜間は3名の支援者で対応し,深夜は2名の支援者が宿泊した。その後,徐々に宿泊回数を増加し,2010年1月からは週3日宿泊,同3月からは週4日宿泊,5月からは週6日宿泊としていった。他の5名についても同様に,段階的に宿泊回数を増やし,スムーズにケアホームでの暮らしに慣れていけるよう配慮して進めていった。
利用者の人たちは,入所後数ヵ月は,著しい環境の変化に戸惑い,不安定になり,自傷や他害,こだわり行動などが見られ,夜間も2,3時間程度しか睡眠がとれない状況が続いたが,2010年8月頃には概ね落ち着いた。そして,同年11月の移行支援会議において,参加者全員で1年間を振り返る中,一定の成果を確認し,ケアホームへの移行支援は無事終了したことが確認され,本事業が終了した。

入居者の入居時の状況

A氏の生活面における必要な介護・支援は,ADL全般において全介助または一部介助。バランスが弱く,不器用なため転倒しやすい。排泄は,ズボン,パンツを下げる介助が必要である。排尿に時間がかかり,5分程度を要する。排便後の尻拭きは全介助。入浴,洗面,歯磨きは全介助。自宅での入浴は,家族による洗身,洗髪の介助で対応している。更衣は一部介助。上着は頭からかぶせると自分で着ることができる。パンツ,ズボン,靴下は,介助により足先を通すと自分で引き上げて履くことができる。また,行動の特徴と行動障害の内容については,A氏は,人が大好きで,積極的に関わりを持とうとする。相手の反応が良ければご機嫌になるが,相手から無視されたと感じたときや,相手との別れ際,叱責されたと感じたときは,物壊しや物投げなどの破壊行動,髪引っ張り,つかみかかり,噛みつき,蹴り等の他害行動がある。車や機械類が好きで触りたがる。適切な使い方がわからないため,壊してしまうことが多く,そのことをきっかけにして破壊や他害に及ぶことがある。プライドが高く,失敗体験に過敏であるため,排泄の失敗や食べこぼしへの介入,自立活動の失敗などにおいて,自尊心を傷つけられたと感じたときは,他害や破壊行動がある。集団は好きだが,他者との関係で介入せざるを得ない場面が多くなるため,他害行動回避のため集団参加が困難である。
A氏の入居前における厚生労働省の行動障害の判定基準点数は,「1.ひどい自傷=週に1,2回(1点)」「2.つよい他傷=週に1,2回(3点)」「3.激しいこだわり=一日に何度も(5点)」「4.激しいものこわし=週に1,2回(3点)」「5.睡眠の大きな乱れ=週に1,2回(3点)」「6.食事関係の強い障害=週に1,2回(1点)」「7.排泄関係の強い障害=週に1,2回(3点)」「8.著しい多動=週に1,2回(3点)」「9.著しい騒がしさ=一日中(3点)」「10.パニックがひどく指導困難=あれば(5点)」「11.粗暴で恐怖感を与え指導困難=あれば(5点)」で,合計35点であった。
B氏の生活面における必要な介護,支援においては,彼は水飲み行動に執着があるため,水中毒を予防するため,水飲みをあまりさせないような配慮が必要である。排泄は,大便後の拭き上げができないため介助が必要である。排泄後の手洗い時に水飲みや顔洗いがあるため,見守り声かけが必要である。小便時は,尿を自分のズボンにかけ,すぐに着替えをするという執着行動がある。食事の場面では,食べ終わった後に箸を歯で細かくちぎることが習慣化している。早食いである。魚や肉は骨まで食べるため注意が必要である。起床や就寝のリズムができておらず,月に数回,寝ない日がある。歯磨きは,仕上げ介助が必要である。更衣の場面では,新しい服のタグを食べるので注意が必要である。好きな活動は,ハサミで広告紙や新聞紙を切る紙切りや雑誌を眺めることである。行動の特徴と行動障害については,B氏は,自分の要求が通らないときや,制止されたとき,痛みなどの生理的不快のときに噛みつきがある。
B氏の入居前における厚生労働省の行動障害の判定基準点数は,「1.ひどい自傷=一日に1,2回(3点)」「2.つよい他傷=週に1,2回(3点)」「3.激しいこだわり=一日に1,2回(3点)」「4.激しいものこわし=週に1,2回(3点)」「5.睡眠の大きな乱れ=週に1,2回(3点)」「6.食事関係の強い障害=週に1,2回(1点)」「7.排泄関係の強い障害=週に1,2回(3点)」「8.著しい多動=ほぼ毎日(5点)」「9.著しい騒がしさ=なし(0点)」「10.パニックがひどく指導困難=あれば(5点)」「11.粗暴で恐怖感を与え指導困難=なし(0点)」で,合計29点であった。
C氏の生活面における必要な介護・支援は,C氏は盲目のため,声かけを常に行い,その都度今の状況やこれからの予定の説明などをする必要がある。歩くときは,支援者の肩に手を当てて移動する介助が必要である。排泄については,小便は自立,大便はペーパーを渡せば自分で拭くが,拭き上げの介助が必要である。箸を使用することは可能である。目が見えないため,食器の位置を手添えで確認する介助が必要である。入浴,洗面,歯磨きは,声かけにより自分で行うが,介助を要する。C氏の行動の特徴と行動障害は,自傷行為があり,主に目を叩く。また,不安定なときは,大声を出すなどがみられる。
C氏の入居前における厚生労働省の行動障害の判定基準点数は,「1.ひどい自傷=一日中(5点)」「2.つよい他傷=なし(0点)」「3.激しいこだわり=一日に何度も(5点)」「4.激しいものこわし=月に1,2回(1点)」「5.睡眠の大きな乱れ=ほぼ毎日(5点)」「6.食事関係の強い障害=週に1,2回(1点)」「7.排泄関係の強い障害=月に1,2回(1点)」「8.著しい多動=ほぼ毎日(5点)」「9.著しい騒がしさ=絶え間なく(5点)」「10.パニックがひどく指導困難=なし(0点)」「11.粗暴で恐怖感を与え指導困難=なし(0点)」で,合計28点であった。

入居者のプロジェクト終了後(1年後)の状況

研究事業を開始して1年後,入居者の人たちの行動障害はほとんどみられなくなった。具体的に,厚生労働省の行動障害の判定基準点数からケアホーム入居1年後をみていくと以下のとおりである。
入居当時,行動障害点数が35点であったA氏は,「1.ひどい自傷=なし(0点)」「2.つよい他傷=月に1,2回(1点)」「3.激しいこだわり=週に1,2回(1点)」「4.激しいものこわし=月に1,2回(1点)」「5.睡眠の大きな乱れ=なし(0点)」「6.食事関係の強い障害=なし(0点)」「7.排泄関係の強い障害=月に1,2回(1点)」「8.著しい多動=月に1,2回(1点)」「9.著しい騒がしさ=なし(0点)」「10.パニックがひどく指導困難=あれば(5点)」「11.粗暴で恐怖感を与え指導困難=あれば(5点)」で,合計15点と20点の減少であった。
また,入居当時,行動障害点数が29点であったB氏は,「1.ひどい自傷=週に1,2回(1点)」「2.つよい他傷=月に1,2回(1点)」「3.激しいこだわり=週に1,2回(1点)」「4.激しいものこわし=月に1,2回(1点)」「5.睡眠の大きな乱れ=週に1,2回(3点)」「6.食事関係の強い障害=週に1,2回(1点)」「7.排泄関係の強い障害=月に1,2回(1点)」「8.著しい多動=週に1,2回(3点)」「9.著しい騒がしさ=なし(0点)」「10.パニックがひどく指導困難=なし(0点)」「11.粗暴で恐怖感を与え指導困難=なし(0点)」で,合計12点で,こちらも17点の減少であった。
さらに,入居当時,行動障害点数が28点であったC氏は,「1.ひどい自傷=週に1,2回(1点)」「2.つよい他傷=なし(0点)」「3.激しいこだわり=一日に1,2回(3点)」「4.激しいものこわし=なし(0点)」「5.睡眠の大きな乱れ=月に1,2回(1点)」「6.食事関係の強い障害=週に1,2回(1点)」「7.排泄関係の強い障害=月に1,2回(1点)」「8.著しい多動=週に1,2回(3点)」「9.著しい騒がしさ=ほぼ毎日(1点)」「10.パニックがひどく指導困難=なし(0点)」「11.粗暴で恐怖感を与え指導困難=なし(0点)」で,合計11点で17点の減少であった。(表2参照)
このように,適切な支援により,行動障害は確実に軽減することが明らかになった。現場の支援者は,ケアホーム開設当初の一瞬たりとも気が抜けず,利用者との対応においては,常にパニックの前兆を見逃さないよう緊張感を伴いながらの支援をしていた状況から考えると,1年が経過し,遙かに穏やかで平穏な生活に変わっていったのである。とはいえ,わずか1年間では,行動障害が完全に消滅することは困難であった。
以下に,研究事業において取り組んできた実践の実施経過を述べる。
表2 A氏・B氏・C氏の厚生労働省行動障害判定基準点数の入居時から1年後までの推移
行動障害判定基準項目
A氏
B氏
C氏
入居時 1年後
ひどい自傷 1点 0点 3点 1点 5点 1点
つよい他傷 3点 1点 3点 1点 0点 0点
激しいこだわり 5点 1点 3点 1点 5点 3点
激しいものこわし 3点 1点 3点 1点 1点 0点
睡眠の大きな乱れ 3点 0点 3点 3点 5点 1点
食事関係の強い障害 1点 0点 1点 1点 1点 1点
排泄関係の強い障害 3点 1点 3点 1点 1点 1点
著しい多動 3点 1点 5点 3点 5点 3点
著しい騒がしさ 3点 0点 0点 0点 5点 1点
パニックがひどく指導困難 5点 5点 5点 0点 0点 0点
粗暴で恐怖感を与え指導困難 5点 5点 0点 0点 0点 0点
合計点数 35点 15点 29点 12点 28点 11点

研究事業(移行支援会議)の実施経過

本事業は,2009年9月に開始し,2010年11月に終了した。その間に,「法人内移行支援会議」を16回,プロジェクトメンバー全員による「移行支援会議」を21回開催した。(付録1参照)
これらの会議の中で,日々の現場実践を振り返りながら,その都度出された問題点や課題点についての対応策を協議し,会議で合意形成された内容を現場で実践し,さらにその結果を次回の会議でフィードバックするという手法が取られた。

研究事業において微視的アプローチとして取り組んだこと

活動におけるアプローチ

強度行動障害者の人たちは集団参加が困難であるため,日中活動は,個別の場所で個別の対応を行った。ひとつの活動に対する持続時間は1分から5分程度で,それ以上長くなるとパニック行動を誘発するため,課題活動(形分け,箸入れ,型はめ,ケース入れ,缶つぶし,ボールペン組み立て等)は1日に最大10分程度で設定した。したがって,その他の時間は,本人の好きな活動(紙ちぎり,ペットボトルボーリング等)やドライブが主な活動となった。支援者は,本人が不穏になることを避けるためと,自宅からケアホームや日中活動に来るのを拒否しないようにするために,活動のあらゆる場面で,利用者が喜ぶよう大げさに褒めたり,拍手をしたりして,本人の満足感を高める支援を行った。
これらのことについて,筆者は,ドライブ以外の活動を増やし,活動自体の中で本人が充実感や達成感を感じることができれば,支援者が利用者に対し,ちやほやする必要もなくなり,支援の負担も軽減されると考える。入所当初の一定期間は,利用者と支援者との信頼関係が未確立であり,自らの居場所を感じることも困難であることから,まずは,本人が楽しめるようにすることを最優先して,一緒に活動をする中で盛り上げることも大切である。しかし,一定期間が過ぎ,利用者と支援者との信頼関係の構築が確立した段階では,距離感を持って接することや,生活の流れの中でのけじめやメリハリを伝えることも大切である。また,A氏のアセスメントによると,A氏は,かつてハンガーシール剥がしなどの簡易作業を行えていたこともある。そこで,将来的には,受注作業をやってからドライブに出発するなどに取り組むなどのことも視野に入れて支援することとした。
また,A氏による第三者への他害だけは避けなければならず,それを起こしてしまうといよいよ隔離しなければなくなるため,施設の敷地内であれば,周りには関係者しかいないため,そこで,他の利用者とのふれあいなど,いろいろなことにチャレンジしていった。
このように日中活動において,A氏に2人の支援者が対応し,活動内容においても,ドライブ中心の活動から,少しずつ課題など,目的意識が持てる活動を取り入れていき,さらに,一つの活動の終わりに達成感を感じることのできる「課題活動」を導入していったことは評価できるだろう。
A氏の日中活動プログラムの策定にあたって,まず,A氏はいろいろな刺激に反応しやすいため,新しい環境に慣れるまでは,ケアホームのリビングで個別対応ベースの活動を通じて支援者との信頼関係を構築していくことや新しい環境に慣れることを最優先した。また,日中の活動内容については,以前,利用していた日中活動事業所で行っていた活動を現場レベルで独自にアレンジして実施した。さらに,本人の特性や好みをふまえて活動を計画した。支援体制については,日中活動は2人体制で対応した。さらに,日中の活動で身体を動かさないと眠れない場合もあるため,体力消耗などとのバランスも考慮しつつ適度に身体を動かす活動を取り入れることや,A氏は,レクリェーション活動に飽きやすいため,複数のプログラムを用意しておき,常に飽きさせないよう配慮することなどが実践された。
このようにA氏がかつて別の事業所で行っていた活動を取り入れたことは,本人にとって活動の見通しを持たせるという点で大きな意味を持つと推定され,本人の特性や好みをふまえた活動を導入したことも同様に重要であると考えられる。

課題活動へのアプローチ

課題への取り組みの動機付けのために,「課題をやり遂げたら何かの報酬がもらえる」という流れを作ると見通しが持てる。重度知的障害者にとっては,強化子としてはお菓子の効果が大きい。また,課題の内容については,将来の趣味の活動などにつなげられる内容が好ましい。また,B氏の紙ちぎりへのこだわりについて,B氏の紙ちぎりは,課題なのか,レクリェーションなのか不明確であった。そこで,課題として行う場所とレクリェーションとして行う場所を分け,本人にも理解できるように構造化した。
このように,B氏にとっての紙ちぎりの目的を,課題とするか,レクリェーションとするかを本人に視覚的にわかりやすいように構造化したことは,本人に対する意識付けにおいても意味があると考えられる。また,与えられた課題を達成した後は,あめ玉やクッキー1枚などの強化子を活用した。それにより課題活動は,本人にとって楽しい活動になっていった。しかしながら,強化子は,食べ物のような即物的なものから,周りの称賛や自己実現としての満足感など,より高度なものへと変革していくことが求められる。

散歩・ウォーキングでのアプローチ

B氏は,ジュースの自動販売機やコンビニエンスストアにこだわりを持っていた。入所当時,B氏の散歩コースについてこうした配慮をせずに散歩を行った結果,自販機に向かって突進したり,コンビニに入っていって興味のある商品を持ち出そうとしたりした。これらのことは,本来,入所前の本人アセスメントの中において把握し,事前対策を講ずる必要があった。すなわち,散歩コースを選定する際はそうしたものがないコースを通るよう配慮が必要であった。しかしながら,実際にこうしたこだわり行動が発生してから対応を考えたため,本人に対し,規制や制限をせざるを得ない状況を作り出してしまった。その後は,散歩コースのレパートリーを増やし,店のないコースは散歩,店のあるコースは買い物など,目的に応じたコース選択をするようにした。これらの配慮により,パニックや問題行動は軽減していった。
この取り組みは,事前のきめ細かいアセスメントの重要性と,環境的配慮として,B氏のこだわりのあるものとの接点をできる限り少なくしていくことの重要性を示唆しているといえるだろう。

ドライブや降車拒否へのアプローチ

A氏がドライブで自動車に乗車するときは,A氏の意思と異なる支援者が乗車すると不安定になるため,一緒に乗車する支援者はA氏が選択すること,どうしてもそれが困難な場合は,違うことに気を紛らわせるなどして気持ちをうまく切り替えるように配慮した。また,戸外では人やお店などを狙うことがあるため要注意であった。公園などドライブの行き先では降車拒否が多いため,本人は野球が好きなので,バットを見せて降車の声かけをするなどの配慮をした。納得できないときに降ろすと逸脱しパニック等を誘発しやすい状況があった。
このように,入所当初,支援者は,A氏がご機嫌を損ねぬよう生活のあらゆる場面で最大の注意を払って対応した。そこで,居室から車への移乗は,物理的手段として居室の掃き出し窓にワゴン車を横付けして動線を塞いで乗車させるなどで対応した。
これらの環境的配慮によって,A氏がパニックに陥ることは多くはなかった。入所当初,A氏の不穏な状態を避けるためには,こうした対応をせざるを得なかったとしても,果たしてA氏にとってこうした支援が本当に好ましいものなのか。「要求すれば何でも自分の思い通りになる」ということが,後々のA氏にとって誤学習につながらないのかという点は危惧するところであった。

夜間活動へのアプローチ

ケアホームでは,夕食や入浴が終わってから就寝時間までの間,本人が退屈しないように風船バレーやペットボトルボーリングなどを行った。退屈な時間を作らないことが重要だとして,日中活動終了後から夕食までの間は,ドライブなどにより楽しい時間を提供した。また,環境の変化や寂しさにより,夕食後不安定になる場合は,できるだけ親密な関わりを持った。退屈は,パニックの引き金になり得るための支援方法であるが,このように常に利用者が楽しんでいる時間帯を作ることばかりが支援者の役割ではないと筆者は考える。このことについて,何もすることがない時間に無理に活動を入れなくても良い。利用者にとって,支援者と関わらなくても済む時間も必要であり,じっくりと関わる時間とひとりで過ごす時間とのメリハリが大切ではないだろうか。ずっと何かに誘うのは,本人にとって苦痛となるから,「ゆっくりとひとりの時間を過ごした後は楽しい活動が待っている」など,本人に見通しを提供することこそが重要であると考える。
そこで,本人からの求めがない限り,支援者からの過度な関わりを避け,つかず離れずの一定の距離感を保って接することを試みた。また,日課については,起床時間,就寝時間は,本人の生活の流れを尊重し,支援者側からの指示はできる限り避けるようにした。このような取り組みを行う中で,利用者は,徐々に自分なりの楽しみを見つけ出すようになり,自分自身の世界を持つことができるようになった。このような本人の意志を尊重し,過度な介入を避けることは,本人のストレス回避には有効であったのではないかと考えられる。

食事支援のアプローチ

食事支援の方法について,以下のことが行われた。A氏が以前利用していた事業所では,午前11時に昼食を喫食していたため,12時の喫食では空腹になるため,新しい生活リズムに慣れるまでの一定期間,午前の活動の途中でちょっとした間食を提供した。夕食時間は,これまでの家庭での時間帯をふまえ,本人が空腹感を感じることのないように配慮した。食べこぼしなどに介入するとかんしゃくになることがあるため,声かけは慎重に行い,威圧感のないように配慮した。B氏は食事の前に箸を折る行為があるため,当面は,割り箸を使用した。また,食器は,食べやすいものを使用した。
このように,各利用者のこだわり行動を避けるよう計画立てて支援していくことにより,問題行動をほとんど起こすことなく,スムーズに食事を摂ることができた。このことは,利用者本人の立場や気持ちを尊重することの重要性を物語っているといえるのではないだろうか。

排泄支援のアプローチ

排泄支援について,A氏は,アセスメントによると自宅以外では排便をしないとされていた。また,失便からパニックに発展する可能性がある。そこで,トイレ誘導は時間排泄で行い,できるだけ排泄をするように促すが,どうしても本人が拒否する場合は無理強いせず,当面は,自宅において行っていただくようにした。
しかしながら,入所翌日から,A氏は,ホームのトイレで排便をすることができた。支援者の時間排泄の声かけやホームがA氏にとって暮らしの場であるという安心感が,家庭と同じような排便行為の実現につながったと考えられる。

余暇時間のアプローチ

入所後,半年が過ぎた頃から,利用者に対しては,支援者がつきっきりでいるのではなく,基本的にはゆったりと過ごすようにした。A氏の好きなテレビ番組はのどかな旅番組で,母親が用意してくれたコマーシャルをカットして編集したビデオテープを倍速で見るのが好きである。また,学校時代の文化祭の劇で本人が映っている映像なら長時間興味をもって観ることができていた。
そこで,こうしたビデオテープを利用し,徐々に,ひとりで居室で過ごす時間を増やしていった。こうした支援は,自室でゆったりと過ごすスキルを身につけていくという点で重要であろう。

「問題行動」へのアプローチ

B氏は,トイレへのこだわりが強く,活動中は10分おきにトイレに駆け込んでいた。しかし,散歩中は排尿がなかった。このことは,活動の見通しの重要性を示しているといえる。トイレに行くこと自体に多くの意味が含まれている。例えば,「暇つぶし」「活動不明瞭」「刺激がないための自己刺激」「場面の切り替え要求」などが考えられる。
筆者は,特異行動に対しては,その行動自体に目を向けてやめさせるというのではなく,その行動が何を目的として行われているのか,何が原因と考えられるのかを明らかにすることが重要であると推定した。

コミュニケーションにおけるアプローチ

利用者とのコミュニケーションの取り方はいくつか考えられる。視覚支援に関しては,写真カードの導入には,見通しが何もないという不安を解消する目的がある。「次にこれがある」という学習を進めることが大事である。先の見通しが持てないから人に依存してしまうこともある。視覚優位の自閉症者にとって,コミュニケーション機能の代替として写真提示などは導入した方が良い。また,声かけだけではなく,文字で情報を伝える等指示方法を考慮すべきである。
また本人観察の重要性について,C氏は自分で何かをしているときの声出しと,誰かに何かを求めるときの声出しが異なる。声の大きさや顔の向きなどで判断が可能である。また,声出しに対して,構い過ぎるのは好ましくない。状況とバランスを見極めることが必要であり,その対応が適切にできていないときに便失禁にいたることもある。
さらに,声かけの仕方について,声かけが煩雑だったり,過剰だったりすることは好ましくない。支援者がとても疲れていて,声かけが乱暴なときは,つかみかかりが多く見られた。したがって,笑顔で,相手にストレスや威圧感を与えないような対応をしなければならない。抑圧的な声かけも良くない。
支援現場では,こうしたことに配慮して,本人とコミュニケーション構築を進めていった。こうした支援の積み重ねにより,写真カードなどによりある程度意思表示ができるようになった利用者も生まれた。

対応ノウハウの習得のアプローチ

A氏は,言葉を発することができないため,手話のサインで支援者とコミュニケーションを取るのが楽しみである。A氏の出す手話のサインに支援者が期待どおりに受け答えをしなければ不穏になるため,A氏に関わる全支援者がA氏のサインに対する返し方を覚えた。そこでは,A氏のサインについて,誰かにしているのをビデオ撮影して,支援者にレクチャーした。
このことにより,A氏は,支援者の期待通りの手話のサインの反応にとても喜んでいた。このことは,支援者との信頼関係構築に大きな意味を持った。

研究事業において巨視的アプローチとして取り組んだこと

本節では,研究事業において取り組まれた支援等の内容について,巨視的アプローチについて検討していく。

入居者の受け入れ時のアプローチ

自閉症の人にとって,大きな生活環境の変化は,戸惑い,不安,恐怖感等をもたらし,そのことがパニックや自傷などの行動問題の引き金となることが多い。とりわけ,家庭や他施設から新たな環境へ移るときは,本人の不安な気持ちに寄り添いながら,スモールステップで移行していくことが求められる。そこで,ケアホームへの受け入れ時に以下の対応方法をとった。
まず第一に,最終的にはケアホーム完全入居を目標とするが,いきなり週6日,又は7日宿泊は著しい環境の変化にともないパニック生起が予測される。そこで,入居当初は週2日宿泊からスタートした。そうして,利用者が家が恋しくならず,サンガーデンが楽しいと思えるまま帰宅することができるようにした。その後,約半年をかけて完全入居を目指し,スモールステップで宿泊回数を増加していった。
第二に,サンガーデンを利用する週2日以外は,昼間は福岡市内の日中活動サービスを利用し,夜間は自宅にて宿泊した。
第三に,人刺激に過剰反応するA氏が週2宿泊スタートとなった場合は,他の利用者の受け入れ時期もその日程をふまえて,同時宿泊にならないように配慮した。
第四に,最初は,週間リズムとともに,日中活動での生活の流れを作ることを優先して支援した。
第五に,日中活動やケアホーム生活を通じて,「また泊まりに行きたい」と思わせる好印象を与えることを心がけた。
第六に,本人にとって魅力ある泊まりにするために,「食べ物」や「人」や「道具」などの環境設定に配慮し,例えば,食べ物では肉が好きなので,焼き肉の料理を提供したり,余暇の時間は,本人が好きなペットボトルボーリングで一緒に遊ぶなど,できる限り楽しく時間を費やす活動を導入した。
これらの入居初期の対応により,利用者A氏は,週に2回の宿泊を楽しみにするようになり,笑顔も見られた。しかしながら,支援者が洗濯など他の業務等によりマンツーマンで対応できない時間帯は,ひとりで間を持たせたり,楽しむことができず,「家に帰りたい」というサインを示したり,淋しくて泣き出す場面もしばしば見られた。そこで,支援者は,可能な限りA氏をひとりにせず,常に一緒に遊んだり,声かけをしたりするよう努めた。このことは,環境の変化への適応が困難な自閉症の利用者にとって,家庭からケアホームへの移行支援として適切ではないかと推定した。

居住環境設定におけるアプローチ

自閉症の人は刺激過敏であり,そこから気に入った刺激に対してはこだわりを誘発し,一方,本人にとって不快な刺激に対しては,自傷や他害,パニック行動の要因となることをふまえ,居住場面での刺激の統制を行った。
例えば,ケアホームの窓の外の車の往来やコンビニエンスストアの電照看板等が窓から見えるとどうしてもそこに行きたくなったり,ホーム内のスイッチや非常灯の明かりなどの刺激物があるとそれに執着する等の可能性が想定された。そこで,パニックを制止するのは本人にとって負担が大きいため,スモールステップで低いハードルから踏んでいき,徐々に本人の環境を拡げていった。
具体的には,窓ガラスに目隠しシートを貼って外が見えないようにする等の刺激遮断を行い,本人が徐々に生活に慣れてきてから刺激遮断を減らしていった。一方,パニックや不穏な行動が起こっても,対応が可能なだけの人的資源体制が整っているときは,過重な刺激の制限は行わず,本人が希望するような環境設定を行った。
これらの取り組みを通じて,利用者は,パニック行動やこだわり行動をほとんど起こすことなく,穏やかな生活を営むことができていた。
このことは,本人が執着するものについてあらかじめ情報収集をしておき,本人の生活環境からそれらを遠ざけることが,自傷行為やパニック行動などの問題行動を予防することにつながりうることを示唆していると考える。

入居3ヶ月目の支援体制

A氏は,11月より入居し,2泊3日で進めてきたが,日常生活に逸脱行動やパニックもあまり見られなかったため,1月より週3泊4日で進めていった。
また,A氏に対して,日中活動において,支援者1名体制だと,降車拒否が見られたら何も活動ができないため,パニックを起こさないように配慮することが最優先となり,無難な活動に制限されてくる。それでは,A氏のQOLを高めていくことができないため,A氏に対しては,最低2名の支援者体制で対応した。
これにより,日中活動のドライブ先の公園などで降車し,屋外で,ボール遊びなどの本人が好む充実した活動を展開することができた。
とはいえ,支援現場においては,利用者の人数に対し,限られた支援員配置の状況の中で,A氏だけのために2名の支援者が対応することは,活動グループ全体にとっては大きな痛手であり,他の現場支援者からの苦情も聞かれた。

入居4ヶ月目以降の支援体制

1月は,A氏は週3泊4日とした。A氏不在の日にB氏,C氏が1泊2日利用のため,宿泊が同日になることはなかったが,2月以降は,B氏,C氏が,2泊3日に挑戦するため,3人が同時に宿泊する機会を初めて持つこととなった。そこで,その日は,サンガーデン支援者2名と,福岡市からの応援を利用者ごとに1名ずつ宿泊することとした。
また,A氏が他の人と一緒に宿泊することにより,入居者間のトラブルの危険性が想定された。さらに,A氏は,人は好きだが,人刺激に過敏のため,日中活動の別れぎわなどに寂しさからストレスが生まれパニックの要因となった。そこで,スムーズに支援者や友達お別れするために,別れの30分程度前からある程度距離を広げていき,徐々にA氏にとっての存在感を減らし,フェードアウトしていくという手法がとられた。 また,ケアホームでの夜間については,A氏が宿泊しない日に他の利用者が宿泊するようにし,A氏が他の利用者と同一日に泊まることのないよう配慮した。こうして,各利用者とも,入居から段階的に宿泊回数を増やしていった。(付録2参照) これらの取り組みを通じて予測できることは,まず,段階的に宿泊回数を増やすことにより,家庭など他の環境から一気にケアホームでの集団生活に移行するよりも,新しい環境に適応する際の緊張やストレスを軽減できたのではないかということである。また,A氏が人との別れ際に不安定になるというアセスメントを踏まえ,そうならないよう計画的な対応をしたことが功を奏したのではないかということである。

場面や支援者での統一した支援のアプローチ

日々の生活の中での共通した場面において,複数の支援者が異なる対応をすることにより入居者が混乱する場面がしばしば見られた。そこで,各支援者間で統一した対応をするように心がけた。例えば,「寝ることを伝えた後は,リビングの電気を消す」など,その都度,統一した対応をすることで本人が徐々に生活の流れを理解していった。
また,宿泊専門職員3人は,利用者に対する支援方法が同じでなければならない。対応の仕方の違いによって利用者が崩れることはしばしば見られることである。そこで,サンガーデン5号館では,支援者間でやっていることの意思統一のために支援者間の定期的な協議の場を設け,支援方法の統一を図った。
これらのことは,変化への対応が困難な自閉症者にとって極めて重要な支援ポイントであるといえるのではないだろうか。

日中支援者と夜間支援者との連携のアプローチ

日中支援者と夜間支援者の利用者に対する現場での対応方法について,双方が十分に意思統一していないところがあった。とりわけ,日中支援員と夜間支援員との情報交流の不十分さに問題があった。それぞれ,利用者が新しい暮らしに慣れるよう一生懸命に頑張っており,相手と連携を取る余裕がないこともあり,双方に乖離が出てきた。それによって最も影響を受けるのは利用者であり,そこが大きな課題であった。そこで,日中支援の4人と夜間支援の3人の7人全員で1グループとして関わることで,全体の結束が非常に強まったのである。こうした状況を経て,日中支援員と夜間支援員との定期的な意見交換の場が設定された。具体的には,水中毒のある利用者に対しては,水飲みへの対応について,日中支援者と夜間支援者との間で対応方法を統一するように話し合い,確認し合った。さらに,トイレ時の介助の仕方が支援員間でバラバラでは利用者が混乱したり,見通しが持てず不安定になったりすることがある。そこで,支援員間で支援方法について話し合って統一して行っていった。

刺激の抑制のための環境整備のアプローチ

A氏については,利用者の人刺激を軽減するために,日中活動は,施設の敷地外で活動した。また,自分のケアホームから他のケアホームなどが見えるため,窓に遮断シールによる目隠しを設置した。本人が環境に慣れて行くにしたがって,徐々に外していった。脱衣室の窓を開けると外が見えるため,窓に鍵をつけた。
このように,パニックやこだわり行動が想定される環境については,それらを排除するために可能な限り変革していった。これにより,利用者は,日々の活動において,不安定になることなく落ち着いて生活ができるようになった。

事故防止のための環境整備のアプローチ

パニックで窓ガラスを割ったとき,破片が飛び散って怪我をしないよう,窓はすべて強化ガラスとし,飛散防止用粘着シートを貼った。ホーム外への飛び出しを防止するため,各出入り口や掃き出し窓には,鍵付きクレセント錠を取り付け,鍵なしでは開けられないようにした。玄関のドアの鍵が,内側がサムターンになっているため,開けられないように内外ともシリンダー錠にした。浴室の鍵がもろく,引っ張ると開いてしまうため,丈夫なものに交換した。大柄な利用者が多いため,トイレの洋式便器を大きいものにするなどの事故防止のための環境整備を行った。
このように利用者がパニックに陥った際に,事故や怪我を負うことのないよう,あらゆる可能性をシミュレーションした上で,適切な環境整備を行うことは極めて重要である。

行動障害軽減のための環境整備のアプローチ

台所の中には冷蔵庫があるため触りたがる。そこで入り口扉に鍵をつけた。行って開けようとしても開かなければ制止する必要がない。それによりかんしゃく行動を回避することができた。破壊防止のため,固定電話はリビングに設置せず,宿直室内に1台のみとした。また,消火器は見えないところに隠した。悪戯防止のために,リビングの火災報知器は非常ベルのボタンが押せないようにカバーを付けた。リビングのテーブル等の家具は,かんしゃく行動の際にひっくり返すのを防ぐために,壁に寄せた。また,クローゼットに鍵を設置した。食器は,危険性の低いものを使用した。
このように行動障害を回避するために,それを誘発させる環境物を排除することは行動障害者にとってとても有効である。

空間認知のための環境整備のアプローチ

課題活動の構造化のために,作業机,椅子は,リビングルームにパーテーションで間仕切って配置した。レクリェーションスペースも構造化して,リビングルームに設置した。
このように課題活動とレクリェーション活動との,場所や家具の配置等による構造化は,今,自分が何をする時間なのかを理解するためにとてもわかりやすい取り組みである。

こだわり行動抑制のための環境整備のアプローチ

B氏は,水飲みのこだわりと水中毒があるため,使用しない水道は止めておいた。また,B氏は,トイレに行くと手洗い場で顔を洗い,口を付け,ズボンを上げないといった行動が目立った。そこで,トイレ内の水道を止めて外の水道を使用することとした。
水中毒は,時には命に関わる危険な病気である。そこで,安全を配慮し,水を飲ませない物理的環境整備は極めて重要である。行動障害者にとって,声かけや直接的支援によりこだわり行動を軽減・除去する方法もあるが,水中毒のように体の健康や命に関わる結果が想定される行為については,物理的に行為自体ができないように整備することが必要である。

他の利用者とのトラブル防止のための環境整備のアプローチ

C氏は声を出すタイプだから,受け入れ前に,他の利用者と交わらない動線を作るなど,環境配慮を行った。
このように,声を出すタイプの利用者に,声を出さないでと言ってもそれは非常に困難である。そこで,他の利用者との声によるトラブルを可能な限り避けるためには,環境的配慮が不可欠である。

ドライブの車内等の環境整備のアプローチ

車内でのパニックによる事故防止のため,車の窓ガラスにフィルムを貼った。また,車の前席と後席の間に間仕切りを設置したワゴン車で移動するようにした。間仕切りは,アクリルボードだと声が聞こえにくく,光に反射して本人の顔が見えにくいため金網による間仕切りを設置した。また,車の整備においては,チャイルドロックとトイレ等に横付けできるようスライドドアが必須条件のため,専用車両を準備した。ドライブ活動中の立ち寄り場所として,人の来ないトイレ,人気のない公園を探しておくなど,社会資源のリサーチも行った。
多くの行動障害者はドライブが大好きである。移りゆく景色を車窓から眺め,様々な発見をする。移動中に非日常を体感する。ドライブ中の利用者は,とても穏やかな表情をしていることが多い。したがって,支援において,ドライブという場面は,非常に多く,支援の重要なポイントとなる。そのため,そこでの環境的配慮は不可欠である。特に,運転中の運転手への抱きつき,突き飛ばし等は,即交通事故につながる危険性をはらんである。そうした点でも,可能な限りの安全体制を確立しておかなければならない。

職員研修プログラムのアプローチ

支援者のスキルを上げていくために,臨床心理士等の専門家によるレクチャーの機会を作った。また,支援者は,県内の自閉症専門療育施設に現場研修に入った。夜間支援員は,同一法人内の自閉症支援を中心とした日中活動事業所に入って研修することなどを,順次具体化していった。
自閉症者支援には,独自の支援技術が求められる。そこで,支援者がこうしたスキルを身につけることは,適切な支援を行う上で必要不可欠である。他の自閉症施設で実地研修を行ったり,専門家を招聘しての座学等も大変重要である。

強度行動障害処遇体制に伴う職員研修計画の実施のアプローチ

法人の直接支援職員を対象に,計画的に研修を実施した。なお,講師は,サンガーデン発達障害研究室の室長が担当した。研修の目的は以下のとおりである。
①各利用者の特性,支援状況を把握し,支援に臨むイメージを持つ。
②強度行動障害処遇体制の支援に臨む意識を自覚する。
③強度行動障害処遇支援に必要な知識,スキルを獲得する。
④法人内の支援の質の向上,他施設との差別化を図る。
研修内容は,以下のとおりである。
①法人外研修(期間:3日間~1週間以上)
②法人内研修(概ね月1回)
法人内研修では,「強度行動障害の行動理解の手立て」「効果的な支援方法」「支援ツールや作業課題の作成」「記録方法」「効率的な情報伝達方法」などについて学んだ。
受講した支援者からは,支援のあり方について体系的に学ぶことができ,すぐに現場に生かすことのできる内容であったとの声が聞かれた。

関係者への情報の周知システムの形成のアプローチ

情報の周知について以下のことが実践された。
①移行支援会議などで話された内容を,誰が責任をもって関係者に周知させるのかを明確にすること。
②移行支援会議の議事録は,電子メールに添付し,翌朝には,各管理者に発信し,管理者が所属メンバーに配布すること。
③細かい情報は,日々の朝礼の場などで提示すること。
④法人内のすべての事業所の職員に情報が回り,各職員が情報を飲み込めるよう文書でしっかり確認してもらうこと。
⑤情報が流れないと,職員間の温度差が起きる。そうなるとついて行けない職員が出てくるため,詳しく,わかりやすく,うまい情報伝達の方法を取ること。
⑥ちょっとした支援のズレなどが放置状態になって,わからないまま進んでいくことが一番問題である。ミスしても良いから,うまく支援していくために支援記録で必ず報告すること。支援記録は,メールで,即日関係者に送信すること。
⑦保護者に不信感を持たれないためにも,報告が必要である。幹部及び現場の職員と保護者との面談を定期的に行い,今後の方向性やニーズの確認を行っていくこと。
グループワークを基本とする支援実践においては,このように,関係者間で,日々の情報を共有することはとても重要なことである。上記のように,すべきことを箇条書きにして事前に合意形成を図っておくことは,その後の支援において大きな意味を持つに違いない。

情報交換,協議機会の設定のアプローチ

情報交換について以下のことが行われた。
①情報が集中する理事長と現場支援者とが,メールだけではなく,直接対話できる機会を設けること。
②週1回程度,理事長と現場の代表が情報交換をすること。
③移行支援会議の議事録の内容について,各事業所であがった意見,提案,問題について,各管理者がまとめて資料作成を行うこと。
④法人内移行支援会議は,移行支援会議の1週間前に実施する。
⑤移行支援会議では,夕方から朝までの利用者の様子を撮影したビデオ映像をもとに協議する。各人の意見の相違について,現実の映像を見ながら支援を検討することが重要である。
⑥現場の支援者がリアルタイムに相談できる体制が必要である。そのためには,24時間メール連絡できるようにしなければならない。
これらのことも,現場支援者による直接的支援実践をしっかりと下支えする上で極めて大切なことである。現場の支援者が,日々ハードな支援に前向きに取り組んでいくためにも,法人の代表である理事長が先頭に立って現場を牽引していくことも重要であると考える。

まとめ

強度行動障害者支援研究事業」には,毎月実施されるプロジェクトメンバー全員が一堂に会して行われる「移行支援会議」と,移行支援会議の事前打ち合わせ会議として法人職員だけで行われる「法人内移行支援会議」とがあり,毎回活発な議論が展開された。その中で,現場の課題を克服するために様々な意見やアイデアが提案された。
強度行動障害者のケアホーム生活を運営するにあたって,微視的アプローチと巨視的アプローチ,それぞれの視点から,本事例研究により明らかにされた強度行動障害者支援の方法について言及する。
まず,微視的アプローチとしては,日中活動時,課題活動時,散歩やウォーキング時,ドライブや校舎拒否時,夜間活動時,食事支援時,排泄支援時,余暇時間中など場面ごとのアプローチ方法,「問題行動」,「コミュニケーション」,「対応ノウハウ習得」といった対人援助場面におけるアプローチ方法について検討した。
その結果,利用者の入居初期の段階においては,何より本人と支援者との信頼関係の確立を最優先し,受容と共感を基本とした対応を行うことが望ましい。そうした期間を経て,信頼関係が構築されてからは,距離感を持った対応や生活の中でのけじめやメリハリなど,本人のストレス耐性を見極めながら,生活面において本人の自立的,主体的活動を促すことが大切であること,また,自立課題やレクレーションなど,活動の目的や位置づけに応じた物理的構造化の重要性も推定された。さらに,こだわり行動については,その行動の目的や原因が,「暇つぶし」なのか「活動不明瞭」なのか「刺激がないための自己刺激」なのか「場面の切り替え要求」なのかなどについて検討し明らかにすることが重要であることが示唆された。また,支援者の利用者への対応の仕方として,笑顔で相手にストレスや威圧感を感じさせない,抑圧的な声かけをしない方が効果的であることが予測された。
一方,巨視的アプローチとしては,入居者の受け入れ方法,居住環境設定,入居3ヶ月目の支援体制,入居4ヶ月目移行の支援体制,場面や支援者での統一した支援,日中支援者と夜間支援者の連携,刺激抑制,事故防止,行動障害軽減,空間認知,こだわり行動抑制,他の利用者とのトラブル防止等それぞれの目的に応じた環境設定,ドライブ車内の環境設定,職員研修プログラム,職員研修計画,関係者への情報周知システム,情報交換・協議機会の設定について事例を元に検討した。 その結果,入居者の受け入れ時は,一気に家庭等から施設での生活へと変えるのではなく,スモールステップで,最初は週一回の宿泊から段階的に宿泊回数を増やしていくことが望ましいこと,また,居住環境の適正化については,本人にとって刺激になるものの排除の方法として,窓ガラスに目隠しシートを貼ったり,パニックが起こったときでも十分な対応ができるよう十分な人的資源体制を確立することが必要であることがわかった。また,宿泊専門職員同士やや日中支援者と夜間支援者とが,常に情報交換や意見交換を行い,声かけや対応方法,スケジュールの流れなど,統一した方法で対応しなければ,本人にとって先の見通しが持てず,不安定になったりストレスがたまって行動障害の誘発因子になることが推定された。さらに,物理的環境設定においては,事故防止のため,窓ガラスを強化ガラスにしたり飛散防止用粘着シートを貼ったり,飛び出し防止のための鍵付きクレセント錠の取り付けなどの必要性が示唆された。
最初の利用者が入所する2ヶ月前より研究事業が始まり,十分な議論により本人のアセスメントを踏まえて受入体制を整えていった。その後も,スモールステップで少しずつ新しい環境に慣れていくように利用日数を増やしていった。また,日中活動と夜間支援との連携も重視され,常に相互で意見交換や引き継ぎを行いながら実践を進めていった。利用者は,新しい環境の中で生活し,新しい支援者,新しい生活の流れの中に身を置き,周囲の状況等の理解が十分にできなかったり,自分の思いが他者に伝わらない等により,利用者は,しばしば不穏になりパニック等が発生した。それでも,支援者たちは,入所時は,頻繁に激しいパニック行動や他害,物壊しなどが発生することを想定していたにもかかわらず,そうした行動があまり見られなかったことに驚きと衝撃を受けた。強度行動障害というものは,適切な環境設定などのアプローチを行うことで,ほとんど軽減されたのではないかと考えられた。

[付録1]「強度行動障害に対応できるケアホーム支援のあり方の実践的研究」事業経過
年 月 日 曜 事業内容
2009 5 29 金 B氏母,サンガーデン見学
6 29 月 B氏母,C氏母,サンガーデン見学
8 5 水 強度行動障害者移行支援プロジェクト結成に向けた打合せ
18 火 強度行動障害者移行支援プロジェクトについての事業説明
9 1 火 第1回移行支援会議
15 火 第2回移行支援会議
27 日 A氏のケアホーム入所に向けた打合せ
10 5 月 第1回法人内移行支援会議
9 金 第2回法人内移行支援会議
19 日 第3回法人内移行支援会議
21 水 第4回法人内移行支援会議
A氏受入体制についての現状報告と協議
22 木 宿直職員の人事について協議
23 金 第5回法人内移行支援会議
26 月 第3回移行支援会議
29 木 第4回移行支援会議
11 2 月 A氏,サンガーデン5号館入所
10 火 福岡市障害福祉課職員,5号館見学に来訪
18 水 第6回法人内移行支援会議
D氏(入所予定者)の保護者サンガーデン見学
25 水 第5回移行支援会議
12 16 水 第7回法人内移行支援会議
23 水 第6回移行支援会議
25 金 第7回移行支援会議
2010 1 5 火 第8回移行支援会議
13 水 第8回法人内移行支援会議
19 火 第9回移行支援会議
2 22 月 第10回移行支援会議
25 木 第9回法人内移行支援会議
3 2 火 第11回移行支援会議
3 水 第10回法人内移行支援会議
30 火 第11回法人内移行支援会議
4 5 月 第12回移行支援会議
26 月 第12回法人内移行支援会議
5 13 木 第13回移行支援会議
26 水 第13回法人内移行支援会議
6 3 木 第14回移行支援会議
7 5 月 第14回法人内移行支援会議
15 木 第15回移行支援会議
26 月 5号館保護者・職員意見交換会
8 2 月 第15回法人内移行支援会議
16 月 第16回移行支援会議
9 1 水 第17回移行支援会議
3 金 5号館保護者・職員意見交換会
27 月 第16回法人内移行支援会議
10 4 月 第18回移行支援会議
15 金 第19回移行支援会議
11 1 月 第20回移行支援会議
8 月 第21回移行支援会議
11 木 5号館保護者・職員意見交換会
[付録2]強度行動障害者ケアホーム 入居者の宿泊回数
年 月 A氏 B氏 C氏 D氏 E氏 F氏
2009年11月 週2日
2009年12月 週2日
2010年1月 週3日 週1日 週1日
2010年2月 週3日 週2日 週2日 週1日
2010年3月 週3日 週3日 週3日 週2日 週1日
2010年4月 週5日 週6日 週6日 週5日 週5日 週1日
2010年5月 週6日 週7日 週7日 週6日 週7日 週4日 2010年6月 週6日 週7日 週7日 週6日 週7日 週7日