Essay

エッセイ

ゆっくり着々と

 

 寒い冬が終わり、河川敷に広がる菜の花を眺めながら颯爽と駆け抜け、男らしい汗をかくゆたかカレッジ3年生のKさんの姿を見ながら、彼の成長している姿を改めて感じた。

 

 ゆたかカレッジでは、毎年行われる行事のひとつにマラソン大会がある。それは3月を予定しており、一年の締めくくりとして学生たちが楽しみにしている行事のひとつである。なぜなら様々な困難を乗り越え、体力的にも精神的にも成長してきた結果を出すチャンスの場であるとともに、さらには自分の決めた目標に向かって取り組んで、全力を出し切ることで達成感が得られる場であるからだ。

 

 今のKさんは、まさにひとつひとつ乗り越えてきた達成感を実感しながら、新たな目標の達成に向かって輝いているように見える。しかしここまでの道のりは険しく、いばらの道だったことを思い出す。

 

 それは彼が1年生の頃のマラソンへの取り組みのことだ。

 

 やる気もない、服装も普段着のまま、走ることに意味など感じていなかった。練習で公園に行った時にはどうやってサボろうか考えていたそうだ。その影響は周りの学生にも表れ、同級生のMMさんと一緒に歩いて過ごした。結果、カレッジ初めてのマラソン大会では、走ってみたもののすぐにあきらめ歩き出し、ふたりで会話しながらゴールした。まだまだ取り組みに対しての意識、理解が離しく、その意味を見出すことができなかったのだ。

 

 2年生になり後輩ができた。人を寄せ付けない態度や、時にはルールをやぶり、暴力、暴言などが目立つこともあった。しかし支援教員の熱い思いで少しずつ反省する姿に変化がみられて来た。

 

 私が彼と直接かかわりを持てるようになったのはちょうどこの頃だった。

 

 私に対して、まだまだ信傾できる相手なのかどうなのか、様子を伺っているのがよくわかった。私は少しずつだが何でも話をした。ゆたかカレッジで学ぶことの意味を促し続け、話をしていく中で、楽しさを一緒に感じられるよう取り組んだ。彼は、元々バレーやサッカーの経験があり、体を動かすのは好きである。だが、ブライドが高いので、マラソンに対しては、負けることがかっこ悪くてあきらめていた。私は勝つこと、達成することへの喜びを彼と共有し、意欲を引き出すことを続けた。すると彼から出た言葉がこれだった。

 

 「もっと体力つけてうまくなりたい。」

 

 びっくりな一言とともに嬉しくてたまらなかった。それからは、学習の中で効果や意味をより強く感じられるようにし、その成果がどうなるかを実践で見せられるようにしたり、記録をつけ、目で見て自分自身の成長の変化がわかるようにした。

 

 もちろん他の学生も・意欲的になり、全体で頑張ろうという雰囲気が生まれてきた。彼も先輩としての意地を見せたい。私は煽るように先輩を意識させた。

 

 2年生のマラソン大会に向けて取り組む時には、タイムを気にする様子が見られ、また体型を意識しだしたのか鍛えたいという意欲がでてきた。もはや一年目と違い、マラソンへの取り組みも理解できている。それでも簡単に生活改善ができるわけではなく、体力が追いつかないこともある。しかし、2年目のマラソン大会では、「頑張って練習した成果を出したい」、そんな気持ちで取り組むことができた。昨年のこともあり、ひとりでも走り切ろうという姿に感動した。

 

 そして3年になり、彼の意欲は生活態度の改善までもたらした。もちろんスポーツだけでなく、ゆたかカレッジでの取り組みの理解や、将来に向けての意識がより強くなってきたのだ。

 

 まだまだ学ぶべきことはたくさんあるが、少しずつ少しずつ取り組んでいる。そして今年のマラソンは初めて5キロに挑戦すると自ら言ってきたのだ。

 

 「今の体力では厳しいかもしれないが、頑張れるか?」の問いに、「頑張る」と力強く答えた彼の気持ちに応えたく、マラソン大会への猛練習が始まった。

 

 昨年まではベースを考えられなかったが、今年は初めからペースと呼吸を意識して取り組んだ。まずは歩かないですむペースで継続させ、少しずつ距離を伸ばしていった。基礎筋力や心を落ち若かせる卜レーニングもすべて意欲的に参加した。

 

 そしてマラソン大会の下見として訪れた公園。初めて走る5キロコースを前に、少し自信に満ち溢れているような姿が感じられた。ペースをそろえ一緒に走った。

 

 「気持ちいい。」

 

 彼が言ったその一言に、私はこんなにも成長している姿に感動した。いろいろあった。ゆっくりではあったが着実に成長していく姿が嬉しく、また私自身の活力となった。

 

 来年は最後のマラソン大会、さらなる成長を楽しみに、一緒に寄り添っていきたいと思う。

 
(KA)