Essay

エッセイ

トレードマークの笑顔

 

 うつむいて席に座っている様子が前期の印象だったYさん。授業中も休み時間もあまり話さず、何か問いかけても返事程度で言葉が続かなかった。私は、とにかくゆっくりと対応しようと決め、注意深い見守りを心がけていた。

 

 しばらくして保護者とモニタリングがあり、三者面談を行った時のことである。母親と何のためらいもなく、スラスラと笑顔で言葉のやり取りをするYさんは、なんと明るく朗らかで、また決断が速いことか。「こんな人だったのか!」と驚いてしまった。保護者とのやり取りの中でも「小さなころから笑顔がトレードマークだった」と聞き、ゆたかカレッジでもそのような一面が増えるようにと支援に取り組むようになった。

 

 ちょうど、その頃、ゆたかカレッジでは、宿泊旅行の行車があり、環境の変化を通して自分の思いを支援教員や仲間に伝える良い機会になった。

 

 ホテルのスリッパが履けない(転倒してしまう恐れがあるため)、集合時間、洗髪、歯磨き、洋服や荷物の整理など何度も悔し涙を流しながら、しかし諦めることなく挑戦した。心配する他の学生や支援教員とのやり取りの中で、徐々に自分の思いを話すことに慣れ、嫌なことがあった日は、必ず支援教員に伝え、家まで持ち帰らないことをお互いの約束とした。

 

 「課題研究」の授楽では、好きな芸能人をインターネットで調べることができるようになると、休み時間や「自主学習」の時間に積極的に取り粗み、支援教員との話も急激に増えてきた。やりたいことができる環境を得て、通常は休む登校日の土曜日にも参加するようになってきた。授業中の発言はもとより、学生同士の会話も自然と行っている。

 

 好きなことが話題に上がると、全身から湧き出たような笑顔で気持ちを表現する。俯き加減で、表情が読み取りにくかったことが嘘のように、今ではしっかりと前を向き活動に取り組む姿があり、トレードマークだった笑顔はもう戻りつつある。

 

(SM)