Qualification acquisition support
2017年5月3日、アイスランドのアイスランド大学を訪問した。
アイスランド大学では、障害のある学生に対してインクルーシブな4年間の教育を提供している。
アイスランドでは6歳から16歳が初等教育、16歳から20歳が2次教育である。そして20歳までは障害の有無にかかわらず義務教育である。これは、スウェーデンやノルウェーと同じである。
大学での教育は20歳からで、大学を卒業するのは24歳である。知的障害のある学生の20歳以後の教育には限度がある。この部分は、日本の18歳以上の知的障害者が置かれた状況と似ている。
アイスランド大学に来る知的障害学生は、20歳までの教育を終えていることになる。知的障害者の多くは、20歳になると仕事に出るのが現状である。
20歳以上の教育の必要性については、保護者たちと障害者教育関係者との間でディスカッションがあった。2005年にはイギリス、アイスランド、そして周辺の国々の教育者が集まり、20歳からの教育、インクルーシブ教育について議論があった。その頃はまだ大学で教えるというイメージはなく、この会議で話し合われたことが、大学での障害者教育に向けた教育の始まりであった。
アイスランド大学の教育プログラムはEUから補助金を受けてスタートした。プログラムのアイデアは、アイルランドのトリニティカレッジから得た。トリニティカレッジはそのときすでに取り組みを始めていたため、アイスランドの教育者たちが視察に行き、アイデアをもち帰った。そして2007年からこのコースをスタートさせたのである。
世界の知的障害学生の大学教育プログラムには3つのタイプがある。
1つ目はセパレートモデルである。2つ目はミックスモデルで、ときにはインクルージョン、ときには障害学生のみの授業を行うものである。3つ目は、障害学生と一般の学生がいっしょのプログラムで学ぶインクルージョンモデルである。
アイスランドはインクルージョンモデルである。必要に応じて一般学生がサポートにつくことはある。障害学生を特別に取り出すことはせず、すべての授業を一般学生といっしょに受ける形である。ただし、職業訓練だけは別に行っている。
アイスランドの教育は、国連障害者権利条約を基盤としたインクルーシブ教育である。2007年、条約に署名したのと同時にインクルーシブ教育を始めたのである。
このプログラムは2007年秋にスタートした2年間のコースである。教員たちは、もっと長い期間にしたかったという。2017年現在6期生が学んでおり、卒業生は56人である。
このコースで2年間を修了すると、正式な卒業証書を出す。これは4年制大学の1、2年次に該当し、日本でいえば教養課程を修了したという証書で、学士が与えられるわけではない。
アイスランドでも卒業証書をどうするべきか議論があった。卒業証書を出すまでは大変であった。大学の動きに加えて保護者のグループや障害者をサポートするグループの力も大きく、それによってようやく卒業証書を取得できるようになったのである。
プログラムの目的は、教育関係への就労に向けて学生たちが準備できるようにすることである。たとえば幼稚園、小学校、学童施設、図書館など教育に関連した職業に就くことをめざしている。
このコースは教育学部が受け入れているため、このプログラムに来る学生には教育に興味をもつことが求められる。大学では教育に関連した知識やスキルを育てることに重点を置いているからである。また、中等教育の次の段階を提供することも大きな目的である。
このコースの学生は入学して最初に、障害者の歴史などを学ぶ。実際に障害者を招いて話を聞くなどして、障害に関するフレームワークを学ぶほか、卒業論文作成のために街に出て社会福祉や政治に関するインタビューをする。これは5人で1グループをつくるが、知的障害学生2人、一般学生3人というような編成で、フィールドワークを含む研究をしている。
アイスランド大学では、2000年から社会福祉を教えていた。このコースが始まる際に知的障害者にも卒業証書を発行できるようになったため、授業内容を変えて知的障害学生も学べるようにしたのである。福祉関係のコースのため、障害学生がいることで、結果として一般学生にも人気が出てきた。選択科目だが、現在では110人を擁する大きなクラスになっている。
キャリアガイダンスは、障害学生と一般学生がいっしょに受けるものである。このガイダンスには、学生が自信をもてるようにする要素を取り入れている。内容は2学期の企業インターンシップにつながるものである。教育関係機関にインターンシップに行くのだが、その際はサポーターが同行している。
2年間コースのため、たとえば幼稚園にインターンシップに行く場合、1年目は「幼稚園実習1」、2年目は「幼稚園実習2」とレベルを変えている。
2年次の1学期にキャリアガイダンスがあるが、その前に自分が行きたいところを決める。履修科目は自分で選択し、将来の仕事に関連するようになっている。たとえば児童施設に就労したい人は「レジャー&チルドレン」という科目を選択するというように、自分が希望する職業に関係した科目を選択するのである。基本的に、自分が就きたい仕事に合わせて科目を選択し、受講するということである。
メンターシステムは、アイルランドのダブリン大学とは異なる。予算があまりなく、プログラムに1人しか職員を雇えないため、メンターシステムをつくって同じコースで学ぶ一般学生が障害学生をサポートするようにした。メンターは無給だが、1学期30単位のうち5単位を取得できる。これがインクルーシブ教育のいいところで、外部から誰かが来るのではなく、クラスの仲間がサポートすることが大切なのである。
2014年に、パイロットケースとしてリサーチ(調査研究)を始めた。このコースの取り組みを整理するためにリサーチの必要性があった。そのためにはバックグラウンドとしてさまざまなデータを集める必要があった。リサーチの方法はいくつかあるが、数的リサーチのほかに聞き取り調査を重視している。大学では個別の聞き取り調査を39人に実施し、そのデータをもとに研究している。
教室では、卒業論文発表のリハーサルの授業が行われていた。
1人目の発表者は、「幼稚園で働きたい」という学生のプレゼンテーションであった。1年目に幼稚園で実習したときに「ここで働かないか」と誘われたという。そのときはコースがまだ1年あったが、卒業してその幼稚園で働くことになったことをまとめて発表していた。
2人目の発表者は、発語が苦手な学生であった。画像と音楽を組み合わせてプレゼンテーションしていた。言葉はまったく発しなかったが、終わったときは大きな拍手をもらい、本人もとても満足そうな表情をしていた。
質問の機会を得て、いくつか学生に質問した。
──大学に行きたいと思ったのはいつ頃か。
A1:高校を終えた20歳のとき。
A2:専門学校を経てここに来た。来たときはとても新鮮だったが、いまはそうでもない。
──何か生活上のサポートを受けているか。
A1:特に受けていない。
A2:グループホームを利用している。お金がなかったから卒業旅行に行けなかった。
──アルバイトをしている人はいるか。
(2人の学生が手を挙げた)
──ここで何を学んだか。
A1:自分を信じること。
A2:自信。
A3:平等ということ。
A4:自分の権利と平等。