シドニー大学

Medical Foundation Campus Medical Foundation Campus

1 CDS(Centre for Disabilities Studies:障害研究センター)の概要

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州のシドニー大学Medical Foundation Campusに1997年、発達障害に関する研究を目的として「CDDS」(Centre for Developmental Disabilities Studies)が創立された。Trevor Parmenter(トレバーパーメンター)教授らがシドニー医科大学と協力してつくったもので、同教授が初代センター長に就任した。

当初は発達障害に特化した研究を行っていたが2008年、範囲を拡大してさまざまな障害についての研究を行うことになり、名称も「CDS」(Centre for Disabilities Studies)に変更された。

このセンターは非営利団体で、ニューサウスウェールズ州政府や国際機関とも協力関係をもちながら運営されている。2012年にはセンター長がPatricia O’Brien(パトリシアオブライアン)氏に代わり、研究・評価・コンサルティング・専門の発展・トレーニング・臨床サービスなど多くの分野で障害者の生活向上をめざしている。

このセンターのビジョンは、「変革のための能力構築」である。このセンターでは、さまざまな活動を行っている。

まず、研究活動である。障害者に関する研究が非常に活発で、国内ばかりではなく国際的な研究にも重点を置いている。また、国際的な活動を通じてさまざまな研究成果を共有し、洞察力や経験と実践の成果を国際的に共有し、さまざまなプロジェクトの設計や開発を進めている。

次に、知的障害者に対して卒業証書を取得できるためのコースを設けている。さらにセンターは2つのクリニックを運営して、障害学生のための医療活動も行っている。

センターに勤務している人は、医療関係者、健康科学研究者、教育者、心理学研究者、言語聴覚士、社会学者、法律関係者など専門職スタッフが研究チームを構成し、臨床的な研究や、構築した理論を現場に適応することによって、障害者の生活をより向上させていくための実践の発展をめざしている。

2 CDS研修プログラムの概要

CDSは2015年12月2日、視察に訪れた我々「ゆたかカレッジ」研究チームのために5つの研修プログラムを用意した。その内容は以下のとおりである。

プログラム1 統合教育プログラム「IEP」(Inclusive Education Program)のプレゼンテーション(フレデリックギャドゥ氏、ジャミママクドナルド氏)

プログラム2 当事者学生、家族との意見交換

プログラム3 「CDS教育パッケージ〜本人主体〜」のプレゼンテーション(Kylie Gorman)

プログラム4 「生涯学習の重要性」の講話(トレバーパーメンター氏)

プログラム5 「支援ニーズのための方法と評価」(I Can)のプレゼンテーション(サムアーノルド氏)

3 CDS研修プログラムの内容

プログラム1「統合教育プログラム」 プログラム1「統合教育プログラム」

プログラム1の講師、FriederikeGadow(フレデリックギャドウ)研究員は、言語病理学を専門とし、これまでIEP(統合教育プログラム)の研究に携わってきた1人である。講義の内容は、シドニー大学における統合教育の実情である。

それは国連障害者権利条約第2条を基本的な根拠とするもので、世界で知的障害者における高等教育推進のイニシアティブをとっている大学などを紹介し、同センターで統合教育が始まった経緯について説明した。

またJamima MacDonald(ジャミママクドナルド)研究員は主に教育関係に携わっており、現在の活動の内容や今後の課題について紹介した。

プログラム2「当事者学生、家族との意見交換」 プログラム2「当事者学生、家族との意見交換」

プログラム2の当事者学生らへのインタビューでは、実際にIEPを受けている当事者から、どのような体験をしているのか、また自らはどのような成果を感じているのかなど、大学生活の当事者ならではの発言があり、さらに保護者から見る当事者の様子などについても意見発表があった。

プログラム3「CDS教育パッケージ~本人主体~」 プログラム3「CDS教育パッケージ~本人主体~」

プログラム3では、心理療法を専門とし、このプロジェクトのマネージャーを務めているKylie Gorman(キリーゴーマン)氏による「CDS教育パッケージ〜本人主体〜」の説明が行われた。

そのパッケージは、障害者を対象とした教育者や支援者に対する障害者支援研修プログラムであり、センターで行われている教育方法を一般に提供し、研修を受けた後に社会全体の理解を深め、さらに広げていこうとする活動である。これまでに600人以上の一般受講者がおり、年々増加傾向が見られるとのことであった。

プログラム4では、生涯学習の重要性についてパーメンター名誉教授による講話があった(大要は第2節2)。パーメンター氏は1974年、マッコーリ大学で研究を重ね、知的障害者が中等教育を修了した後もさらに学べる環境が必要であると考え、社会に出る前の準備機関として「Work Preparation Center」(職業準備センター)を立ち上げた。その結果、高等学校卒業後のさらなる教育の重要性について確信したという。

その活動は世界に広がり1999年にはIASSIDD(国際知的発達障害学会)の会長を務めた実績をもつ。シドニー大学CDSの創立者で、現在も障害者に教育の機会を設ける必要性についてさまざまなところで講演を続け、世界に発信している。

プログラム5「支援ニーズのための方法と評価」 プログラム5「支援ニーズのための方法と評価」

プログラム5では、支援ニーズのための方法と評価についてSam Arnold(サムアーノルド)氏がプレゼンテーションを行った。アーノルド氏はさまざまな実態を分析するなかで、当事者に必要な支援とは何か、またどの程度の支援が必要とされるのかについて研究を深め、実践に活用している。

そこで紹介されたのが「I CAN」という評価ツールである。このツールを繰り返し使っていくことでどれだけの成長が見られるかなどが数値として現れること、このシステムがどのような役割を果たしているのか、などについて説明があった。

第2節 インクルーシブ教育プログラムの普及の現状

1 国際的に見たインクルーシブ教育プログラムの現状

国連障害者権利条約の第24条には「締約国は教育について障害者の権利を認める」と謳われている。オーストラリアはこの権利条約の批准国であるため、大学教育を含めたあらゆる教育を受ける機会を障害者に提供する義務がある。 (世界地図削除)

しかしこうした条約を批准したにもかかわらず、知的障害者が大学レベルの教育を受ける機会は非常に限られている。今日この分野は、国際的に関心の高い分野である。

ちなみに、CDS現センター長のパトリシアオブライアン教授はかつて、アイルランドでこの分野のイニシアティブをとっているTrinity College(トリニティーカレッジ)に勤務していたため、CDSは同カレッジとも強い交流関係をもっているという。

オーストラリアで大学のインクルーシブ教育を行っている大学は、わずか2校である。シドニー大学はその1つであり、もう1つが南オーストラリア州アデレードにあるフリンダース大学である。フリンダース大学は1999年のスタート、シドニー大学は2012年のスタートである。この両大学はいわゆる完全統合型の教育を行っている。

2 パーメンター教授による「生涯学習の重要性」

パーメンター教授が知的障害児特別支援学校の校長をしていた1970年代当時、高等部を卒業したほとんどの生徒は世間から隔離された作業所に行っていた。パーメンター氏はそのことに疑問を感じていた。多くの卒業生たちは普通の職業に就くだけのスキルをもっていると思えたからだ。

パーメンター教授は、我々に次のことを語った。

理念上も心理学上においても中等教育を受けた生徒たちは、さらに高い教育を受けるべきだと考えるのは当然である。理念上では、障害がある人たちも同じ教育を受ける権利をもっているといえる。

教育心理学を学んだ人にとっては容易に理解できることだが、知的障害者が一般の人たちよりも発達が遅いことを考えれば、学ぶことは身体的にも知的にもさらに年を重ねたほうが意味のあるものになる。

したがって、そうした子どもたちが成長していく上で、成長する時期における教育の重要性は強調しても強調し過ぎることはない。18歳で卒業した後にこれからさらに成熟していく上で、それ以降の能力を高めていくための教育は非常に重要だと考えられる。

プログラム4「生涯学習の重要性」
プログラム4「生涯学習の重要性」

3 シドニー大学におけるインクルーシブ教育の成り立ちと経緯

オブライアン氏はアイルランドのトリニティーカレッジでの経験を得た後の2012年、CDSのセンター長に就任した。アイルランドで学んだインクルーシブ教育を、さらにオーストラリアで展開するプロジェクトが始まった。

幸いなことにオブライアンセンター長は、当時このインクルーシブ教育の分野に熱心だった州政府の職員と出会った。同職員は非常に協力的であり、助成金を受けることができた。それによりこのプロジェクトの開始が実現した。

プロジェクトチームの最初の取り組みとして、まずインクルーシブ教育推進委員会を設立した。そして知的障害のある5人の青年たちに、大学で6か月間学ぶことに関心があるかを尋ねた。すると全員が大学生活を希望し、その学生たちは大学で6か月間学ぶことになった。

大学は助成金で、学生たちの学内での社会的交流の支援を担当する2人のコーディネーターを雇用した。また助成金の一部をリサーチ活動にも活用した。このパイロット事業の実施で学生たちがどのような経験をし、そのなかで何を獲得したのか、またメンターとして一般の学生たちがどのような体験をしたのかのリサーチも行った。

シドニー大学が使ったのは「聴講生モデル」である。「聴講生」とは講義への参加やチュートリアル(個別指導)に参加はできるが、単位の取得ができない学生のことである。このプロジェクトに参加した学生たちは、自分がもっている強みや能力などの関心にもとづいて特定の授業に参加することが求められた。

この6か月のパイロット事業が成功したことにより、その後2年間のプログラムが導入された。大学は、このコースが終わった学生にプログラム終了の証として修了証書をわたしている。

第3節 シドニー大学におけるインクルーシブ教育の実際

1 学生や教員から見たインクルーシブ教育の印象

最初のパイロット事業で学んだ学生たちは、この6か月のプロジェクトの印象について次のように述べている。

「6か月間、大学に溶け込んでいた気がするし、受け入れてもらったようでとても満足している。あとで仕事をするときに必要となるスキルを学ぶことができた。また、友達と会って楽しむことができた」

これは、とても重要な点である。

また、教員からのフィードバックの意見のなかには、単にやらなければならないからではなく、「人権という意識を高めることができた」という意見があった。すなわち、学生たちにとってだけではなく、教員にとって、また大学全体にとって貴重な経験であったという意見が出ているのである。

一般学生からは、それまで直接的に知的障害者と会ったことがない学生が、このような機会があったことをとてもポジティブにとらえた意見も出ていた。

2 2年間のプロジェクトの内容

パイロット事業の終了後、推進委員会はこの事業を、継続して行うだけの価値のあるプロジェクトと判断した。そして州政府の補助金を受け、2年間のプロジェクトを進めていくことになった。

その後、2013年と2014年の2年コースがスタートし、学生は10人に増加した。大学での科目はあくまで学生自身が選択し、教員側から特定の教科の受講をすすめることはしなかった。その結果、2年間で10人の学生たちが学んだ教科は5つの学部にわたっている。

パイロット事業で明らかになったことは、より個人ベースの支援が必要であること、グローバルな視点に立って最も適切な教育方法を学び、導入するべきであるということだった。

そこで補助金をさらに増額してもらい、その分を個別授業に充てることにより、マンツーマンの対応ができる形式を導入した。各学生には、メンター(一般学生のボランティア)がついている。それは徐々に増え、20人の学生がメンター役を希望した。

2014年には、シドニー大学の中心にある伝統的な建物において、プログラムに参加している学生とメンターに、その功績をたたえる表彰式が行われた。

3  Christopher Barton(クリストファーバートン)さんとスタッフのDamada(ダマダ)氏との対談

学生のバートンが、スタッフのダマダと大学生活について対談した内容を紹介する。

ダマダ:バートンはどうしてシドニー大学を選んだのか。

バートン:この大学が知的障害者に大学で勉強できる機会を提供しているから。高校を卒業したときに大学に行きたかったけど、大学に行くための点数がなかった。だから残念だと思っていたときにシドニー大学のインクルーシブ教育を知って、行ってみたいと思った。

実際に大学に行ってどんな教科があるのか話を聞くなかで、栄養学について勉強したいと思った。栄養学を選んだ理由は、もっと栄養について知りたいと思ったから。人から「どこの大学に行っているの?」とよく質問される。そのときは「お父さんが行った大学と同じ大学」と答えている。

ダマダ:この事業は、若い知的障害者に対して教育の機会を提供することを目的に、2012年にスタートした。成功するかどうかわからないなかで、試験的に導入した。その結果、実際に参加した学生たちの独立心がとても強く芽生え、自己主張する態度が育ってきた。その成果に確信を得てその後も継続していくことになり、本格プロジェクトに発展していった。

 大学では、1人の学生にメンターと呼ばれる学生が2人ついて個別指導の手伝いをすることで、大学で必要とされるさまざまな支援を提供している。

メンターには2種類あって、メンターの1人は勉強の手伝い、もう1人は生活面のサポートを担当する。いっしょにコーヒーを飲みに行ったりする。メンターとの関係は、うまくいったりいかなかったりいろいろだ。

4 パイロット事業で見えてきたプロジェクト成功のための7つの秘訣

パイロット事業の結果、プロジェクトを成功に導くためには、以下の7つの要素が必要であることが明らかになった。

①プログラムをコーディネートするスタッフが2人以上は必要である。CDSでは、正規のスタッフとパートスタッフの2人が対応にあたっている。スタッフの仕事はあくまで陰の仕事であり、各障害学生とパートナーになっているメンターがファシリテーター(陰の推進者)として、障害学生が授業を上手く受けるために一般学生と関係づくりをしている。

②CDSの9人の学生は、強い動機をもってプロジェクトに参加している。彼らの関心事はバラバラで、大学内にある多様な機会を利用して活動している。9人というのは、1人ひとりに対して個別に対応できる人数で、あまり多くない人数であることがポイントである。

③学生たちを受け入れている学部は6学部ある。それらは、「アート」(キャンパス内にあるシドニー芸術大学)「ヘルス・健康」「ビジネス」「社会科学」「教育」「音楽」の6つである。IEPのベースにあるのは、大学生活のあらゆることに学生たちが積極的に参加するということである。

④メンターは、このプロジェクト成功の一番大きな要素である。メンターは一般学生で2種類あり、1つは勉強の部分の支援、もう1つは社会的な支援である。

勉強の部分のメンターを「アカデミックメンター」といい、学生たちといっしょに講義を受け、不明な点を手助けしている。学生たちにとって慣れた人からの支援は安心する。また授業中のみならず、授業の前後にも必要な支援を提供している。

もう1人のメンターは社会的部分を担当し、そのメンターを「ソーシャルメンター」と呼んでいる。ソーシャルメンターは、放課後いっしょにコーヒーを飲んだり、同好会に参加したり、ショッピングに出かけたりしている。そのほかにも、本人がしたいことがあればそれにつき合う支援をしている。

このメンターを決めるのは、学生とメンター希望者とを「お見合い」のような形でマッチングする。まずメンターになりたい人が応募し、その学生がどのようなことに関心があるのか面談し、IEPの学生とマッチメイキングをするのである。

現在、メンターの役割を引き受けているのは20人以上にのぼっている。メンターは原則として学期ごとに交代し、その度にマッチメイキングをする。一度メンターを経験した人は何度も応募している。

⑤5つ目の構成要素はチューター(個別指導員)である。このプログラムのチューターは、シドニー大学で古代史を教えている講師である。その講師はもともと大学で古代史を教えていたが、その際に知的障害学生がその授業を受けており、その学生に強い関心を抱いた。そこで、その講師に有給のコンサルタントをしてもらうことになったのである。

2週間に1回の頻度で、一人ひとりに45分間の個人指導(チュータリング)を行っている。個人指導の目的の1つは、学生が大学の授業をもっと理解しやすいようにすること。もう1つは、各学期の終わりに自分が学んだことについて80人ほどの前で1人ひとりプレゼンテーションをするが、その際に手伝ったり個人的な指導をしたりする役割がある。

⑥6つ目の秘訣は、大学生のキャンパスライフである。勉強だけでなく大学におけるさまざまな社会的な活動が重要である。教員やソーシャルメンターは、学生に対し同好会やサークル活動などへの積極的な参加をすすめている。

⑦最後の重要な秘訣は、家族や支援者たちである。センターは家族や支援者たちと密接な関係を保ち、お互いに価値観を共有していることを確認し、それにもとづいて適切なサービスを提供することを常に心がけている。そうした活動を続けながら教員やメンター、学生たちからフィードバックを受け、常に改善に取り組んでいる。

5 教員と学生のプロジェクトに対するフィードバック

教員からフィードバックされた意見は以下の内容である。

「クラスのなかで彼らは本当にすばらしい学生たちだ。ほかの人たちよりまじめに勉強している」

「自分の講義に出席してもらうのをとても楽しみにしている。常に一生懸命で集中力がすごくある。一生懸命やる姿がすばらしい」

「学生はいつもやる気満々で、ほとんどの授業に出て、会いに来る」

障害学生たちからフィードバックされた意見は以下の内容である。

「ときどき、不可能なことを夢見る。しかしその不可能が現実にできたとき、それは奇跡といっていい。このシドニー大学に出席する機会が得られ、インクルーシブ教育のおかげでそう感じることができた」

「大学に属していると感じることができる。大学が大好きだ」

「シドニー大学でのIEPプログラムを受ける前は、特別支援学校の生徒だった。いまは、独立した“大人”として、もっと広い世界で学んでいる1人の人間だ」

メンターの、日々の活動についての意見は以下の通りである。

「ソーシャルメンターをしている。近くにいていろんなことが上手くいっているかを見守っている役割だ。生活を楽しんでいるということを保証するための役割だ」

「いろんな経験をしたり楽しんだりするお手伝いが私の役割だ」

「インクルージョンとは、受け入れること。いっしょにすること。阻害するのではなくいっしょに何かをすること。みんながリラックスすること。参加に平等の機会を提供することだと思う」

「社会的あるいは学業において、メンターが支援を提供することによって、障害のある学生たちに愛や平等、幸せを共有するコミュニティが築かれる。したがって、障害者が受けるべき権利を擁護する保証になっている」

「IEPプログラムは、障害者の教育制度をつくることがいかに重要かを教えてくれた。つまり学生たちが、主流の教育制度に合わせていくのではなく、学生たちに対して新しく創ることが大事なのだ。ということで、このIEPプログラムの提供が私に対してとてもありがたいと思っている」

「このプログラムに参加したことは自分の経験を豊かにしたし、さまざまな情報を与えられる機会にもなった」

6 プロジェクトの今後の方向性

 このプロジェクトを継続していく方法や、州政府からの補助金の継続を指向していく方法を検討する上で懸念されている問題は、国が主導して導入された「障害者保険制度」である。この保険制度の導入により新しい機会が設けられる一方で、これまでのやり方を大きく変えなければならないところが出てきている。

そこでCDSは、今後は「社会企業モデル」をベースにしていくことを検討している。すなわちCDSとしては、社会的市民であるとりわけ慈善事業に協力的で活発な企業等にアプローチし、ビジネス関係をもちながら、これまでのやり方を継続していくというビジネスモデルを模索している。たとえば、企業がスポンサーとなり奨学金を出すとか、学生1人ひとりに対してお金を出してもらうことなども考えている。

その一方で、これまでのプログラムをさらに改善していく努力を続けることも推進している。また、大学のキャンパス内でもこのプロジェクトが拡大しつつあるため、大学の支援の規模も大きくなってきている。そこで、さらに学内でのさまざまな活動に参加できるようロビー活動を続けていく予定である。

CDSは今後、学生たちのインターンシップの導入も検討している。学生個々人のやりたいことはさまざまだが、国際的なリサーチにおいても明らかになったように、職場での経験、コミュニティでの経験を、実際の現場で行う機会をつくっていくことが必要と考えている。

第4節 プロジェクト参加学生へのインタビュー

1 ステファニーさんの話

私は栄養学を勉強した。特に、健康とスポーツを勉強した。いろんな学科を勉強したが、どれもとても楽しいと思った。

私はこのプログラムのことを、前にこのプログラムのコースに通っていた友だちから聞いた。その彼女から、どういうコースだったかとか、2年間どうだったかを聞いて知った。

このプログラムに関心をもった理由は、初めは母が、私に大学に行ってほしい、もっと学んでほしいと思っていたからだ。もちろん私自身も、もっと学びたいと思った。

大学生活で、私にはメンターが3人ついた。まずマンリーさん。彼女には、私が勉強してきた2つの教科でいろいろ手伝ってもらった。「ヘルス&スポーツ」という教科と、「若者と文化」という教科だ。

2人目はグリーさん。彼にはスポーツコーチングの部分で勉強を手伝ってもらった。その2人は同じ教科を勉強していた人ではなく、ただ自分が授業を受けるときにいっしょに来て隣に座っていた。

3人目はミッキーさん。彼女には、ソーシャルネットワークでいろいろと人とのつきあいの輪を広げるときに手伝ってもらった。いろいろな話をした。

私にとってこの大学に入って一番よかったと思うことは、この大学で勉強し始める前は自分に自信がなく1人では何もできなかったが、社会に出るためのいろいろな勉強をすることを通して、自分1人でもさまざまなことができるようになったこと。つまり、自立できたということだ。

一方、大学生活で一番難しかったことは、これから先生になろうとして勉強している教育学部の学生たちとグループプロジェクトを組んだとき。そのときのコミュニケーションの手段としてフェイスブックが使われた。そのフェイスブックではみんなチャットをしているが、1つのトピックでずっと同じ話をしているわけではなく、話題がそれたり別の話題に移ったりすることが頻繁に起こる。自分は、その流れについて行けないという問題があった。

最終的に、このプロジェクトのコミュニケーションの手段としては、フェイスブックよりEメールの方がいいだろうということになり、変更になった。私にとっては、フェイスブックを使ったコミュニケーションが一番難しかった。

来年度、一番楽しみにしているのは、夏休みが明けて、友たちとまた会えること。家庭や地域での生活で一番の変化は、自立してきたことと自分に自信がついたことだった。

2 アイリーンさんの話

私は、幼児期における栄養および健康についての勉強をした。とても興味深いと思った。

このプログラムがあることは母から聞いた。このプログラムに参加したいと思った理由は、自分もやはり大学で勉強したいから。兄や父が大学に行ったように、私も行きたいと思った。このIEPプログラムではそれができると知った。

私の大学生活で、メンターはジェミーという男子学生だった。彼には、授業が休講になったとき、スマートフォンで教えてもらった。「今日は授業があるよ」とか「今日は授業が取りやめになったよ」と。

私は、一貫して幼児教育に関連した教科を勉強してきた。メンターのジェミーも同じコースに入っていた。ジェミーを通じて私はとてもいいたくさんの友たちをつくることができた。

大学に入って一番よかったこと。父は、UTS(シドニー工科大学)でエンジニアリングを教えている。私もこの大学に通うので、いっしょに家を出る。あるところで、私はこっちの大学、父は向こうの大学へと「じゃあね」と別れる。いっしょにそれができるのが、とてもうれしい。

そのほかには、クラスメートができたこと。また毎学期、授業でプレゼンテーションをするので、そこでとてもいい経験をしている。そのプレゼンをするためにいろいろな人たちと会うことも、とても楽しいことだった。

特に教育学部の学生たちといっしょにプロジェクトを組んで、その結果をプレゼンしたのは、すごくいいことだったと思う。

自分は先生になりたいので、教育学部の学生たちと「はらぺこあおむし」の絵本をいっしょにつくって、学校で教える経験をした。どのような教育がインクルーシブ教育かとか、健康、食事、アレルギーの原因について、ピーナツバターなどはアレルギーの可能性があるのでフルーツを食べようとか、そういうことを5分間のビデオにまとめてプレゼンをした。1学期は13週間だが、プロジェクトは真ん中頃から始めていた。

 一方、大学生活のなかで一番難しかったことは、ある先生が早口過ぎて、ちゃんとノートが取れないので大変でした。だから、取れるだけノートを取って家に帰ってそれを読み返し、もう一度書き直していた。

 来年度最も楽しみにしていることは、もっとたくさん勉強をすること。それから、新しいコースで勉強することも楽しみ。

3 アナリタさんの話

考古学と古代ローマの勉強をした。講義に出ても内容が理解できたから、とっても楽しかった。それから講師の先生やメンターからいろいろなフィードバックをもらったこともとてもうれしかった。

私がこのプログラムを知ったのは、母がこのプログラムについてよく知っていて、私に教えてくれた。父はシドニー大学に通っていたから、私をよくこの大学に連れて行ってくれて親近感があった。

このプログラムに参加してみようと思った理由は、まず私は人が好きで、いろんな人たちに会えることがある。それから、このプログラムではいろいろな情報を提供してもらえることを知ったから。あとは、実際にメンターなどといっしょにいろんなことができるのも、おもしろいと思った。

 私はいままで、関心があることを1人でいろいろとやってけれども、考えた。ほかにも同じように関心をもっている人がいれば、いっしょにやっていいのではないか。あるいは、バックグラウンドがまったく違う人と会う機会があっていっしょに何かができたら楽しいと思う。あとは、そうしたことをしながら自分をサポートしてくれる人がいたら、これはとてもいいことだと思う。

それからもう1つ、一方的に誰かがこれをしようというのではなく、いろいろな見方があるわけで、それを話し合うことはいろいろな意見が聞けて、とてもいいことだと思う。それから、自分で何か成し遂げたいという気持ちがあって、それができるのではないかと思う。

大学生活で、私には2人のメンターがいた。2学期のメンターはコリーナという人で、彼女には本当にいろいろなことを手助けしてもらった。

よく携帯電話にテキストメッセージを送ってきた。教室ではメモ取りや、私がきちんとついていけているかどうかをチェックしてもらったこともあった。2学期を通していろいろな形でサポートしてもらった。チュートリアル(個別指導)のときにもいっしょについて来て手伝ってもらった。彼女自身は私と同じコースで勉強している学生だった。

私がこの大学に入って一番よかったことは、視野が広がったことだと思う。物の見方が広がった。たとえば、いま自分の周りで何が起きているのかについて、以前よりも意識が向くようになった。また、私が母親に、自分がいま関心のあることを話したとき、母にはあまり関心がないことがあるが、それは私が母とは違う関心をもつ、つまり自立して生きていることの現れだと思うようになった。

もちろん母は、それぞれの学期を通してサポートしてくれるし、実際にいっしょに学校までついて来てくれたりするが、ときどき「これじゃだめだ」「たぶんそれはやめた方がいいのではないか」と思うことがある。そんなふうに自分の考えが出てきてそれを母に話ができる。大学で学んだ、こうこうこうだということをもとにして母と話ができるようになったのが、とてもよかったと思う。

母はきちんと話を聞いてくれるし、理解をしてくれるので、自分が思ったことをいろいろと話ができるようになったことがとてもよかったと思う。

大学生活で一番難しいと思ったことは、自分個人の生活と大学での生活とのバランスの取り方。どういうふうにすればいいバランスが取れるのかが難しいことだと思う。

 来年度の楽しみは、よりたくさんの自由、選択肢がもっとたくさんあるということ。それと、レクチャーを通してもっとたくさん知識を得ることだ。

4 アナリタさんの母、ラクシミさんの話

母親として、自分の娘が大学で勉強できることは、とてもエキサイティングに感じている。そういう機会が与えられたことを、大変うれしく思う。

私がこのプログラムについて知ったのは、仕事の同僚から聞いたから。娘のアナリタは、学校を卒業した後に仕事をしていたが、もっとこういう機会があったらいいと考えていた。そのときに、職場の友たちからこういうプログラムがあると聞いた。そしてEメールでその詳細を知らせてきた。それがきっかけだ。

私がこのプログラムに関心をもった一番の理由は、娘のアナリタに大学に行く機会を与えてくれるものだったから。娘が大学に行くことは、親にとっては不可能な夢。だから娘に対して、大学に行くことはあえてすすめなかった。決してそんなことは起こるわけがない、と考えていたからだ。

しかしこのプログラムを聞いて、特にこのプログラムがインクルーシブなものであることに、大変興味をもった。インクルーシブというのは、すなわち障害のある人たちだけのものではないということ。あらゆる人たち、学生たちに提供されるものだから、娘の立場からしても大変興味がある。大学に行く夢を叶えてくれるものでもある。また親として、娘がそうした機会を得られるのは、本当にすばらしいことだと思った。

大学での最初のメンターは、娘とは違う学科を専攻していた。ただ、学業は別にしても、娘が同じ年齢の人といっしょに過ごし、その人といろいろな話をし、そして支援をしてもらうことは、親の気持ちとしては安心できるところがある。そして、いっしょにランチを食べるとか、そうした友人がいること自体がとても重要な点だと思った。

2学期についたメンターは、娘と同じ教科を勉強していた。古代ローマについての勉強だ。社会的な時間をいっしょに過ごすことはあまりなかったが、彼女に、レクチャーを受ける上でどこに行けばどういう情報があるなど、勉強していく上でいろいろと役に立つアドバイスをしてもらったことが、娘にとってとてもありがたいことだった。

 今年度でアナリタは自尊感情も高まってきたし、自信もついてきたのは明らか。来年度はもっと自立してほしい。1人で通学をしてみることも実際にやってもらいたいと思っている。

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