Qualification acquisition support

各大学視察報告

ナザレ大学

韓国のナザレ大学の視察は、2016年11月3日に実施した。

第1節 ナザレ大学が知的・発達障害のある学生を受け入れる目的

韓国のナザレ大学はキリスト教系列の大学で、知的障害者を対象とした正式な学科「リハビリテーション自立学科」を設置している。

これまで諸外国で大学を多数視察してきたが、それらはいずれも大学の正式な学科ではなく、聴講生制度や大学が主催する市民講座等の生涯学習制度の枠組みを活用した学びの場の提供であった。ナザレ大学はそれらとまったく異なり、知的障害者に対する本格的な高等教育の場となっている点が非常に特徴的である。

ナザレ大学の林承安(リム・スンアン)総長は、大学の概要と知的・発達障害者を大学で教育する目的について、要旨次のように説明した。

ナザレ大学は、1952年にアメリカの宣教師が創立した。当初はアメリカの牧師輩出のための大学だった。1980年代にソウルから天安(チョナン)市に移転した。

それから20年が経ち、知的・発達障害の関係に関心をもつようになった。韓国国内の200余りの大学のなかで、知的・発達障害の学生が入学できるのはナザレ大学だけだ。

ナザレ大学で最初に知的障害者を受け入れる際は、さまざまな反対があった。

「大学なのに、どうして知的レベルの低い学生を受け入れるのか。大学は高等教育なのに……」と。

そこで私は反対する人たちに聞いた。

「そもそも『高等教育』とは何か?」

私はアメリカに留学しイェール大学に入った。イェール大学は韓国の大学を認めない。ソウルにある数々の大学が地方の大学を認めないのも、また同じだ。では、高等教育の標準とはいったい何か。大学のスタンダードとは何か。

「高等教育」とは、比較することではない。「教育」とは相手と自分を比べることではなく、一人ひとりに適応することだ。

ある学生は高校生のとき、45分間の記憶の持続力をもっていた。その学生は大学に入って3学期に3倍の持続力になり、2時間以上集中力がもつようになった。つまり、集中力が3倍以上続くようになったのが、高等教育の成果だ。

その学生は、通学に1時間以上かかる。家を出るときに母親は、「学校に着いたら家に電話をするように」と伝える。その学生は「はい」と答えて家を出る。しかしその学生は、大学に着いた頃にはその約束を忘れてしまう。記憶は45分間しかもたないからだ。

しかし3学期を過ぎた頃、母親は大泣きした。その息子が大学に着いて「無事に学校に着いたよ」と電話をするようになったからだ。ここに、ナザレ大学が障害のある学生たちを教育する目的がある。

学生一人ひとりの知的能力、他人を助けられる能力を願う。知的障害があるからといって、いつも他人から助けてもらうというのは違う。学生時代は先生やほかの学生から支援してもらうが、卒業してからはほかの人たちを支援できるようになる。

第2節 リハビリテーション自立学科の授業

私たちはリハビリテーション自立学科の授業を見学した。同学科は知的障害で一番軽度の学生たちが主で、定員25人に対して120人以上が志願し競争率は4.8倍。韓国国内で唯一の正式学科で、まだ発展中だが保護者の関心も高い、と学部長のキム・ソンギュ教授は説明した。

その日は3年生の18人が「サラリーマンの勤務マナーと姿勢」の授業に参加していた。授業終了後、視察参加者が同教授や学生に質問した。

──対人関係を勉強していたが、実践する場所はあるか。

最初はいろいろな内容を言葉で勉強してから、次の教育段階で自らあいさつや生活マナーについて一人ひとり教育をして確認する段階もあるし、PCの実務も行っている。まだ足りないところが多いのも事実。会社の事務室のような場所を設けてロールプレーでトレーニングをする予定だ。

──朝から大学に来ているのか。

寄宿舎の人も通学の人もいる。午前9時からスタート。自分で時間割を組んで行動している。

──授業がある時間、授業がない空き時間は楽しく過ごしているか。

午前3時間、午後3時間の授業だ。その間、空き時間はある。みんなで集まってコーヒーを飲んだりして、自由に楽しんで過ごしている。

通学生は遠くソウルから来ている人もいる。寄宿舎の学生は、ひと月に3回、楽器演奏やパソコンなど自分が望むクラブ活動がある。みんな明るく過ごしている。

──いつもテキストは使用しないのか。

今日は特別で、授業終了後もインターネットで確認できるようにしている。必ずノート、筆記用具を持参して、読んだり書いたりするトレーニングになるようにしている。

──授業はいつも同じメンバーか。それとも別々の授業に分かれることもあるのか。

教養科目と専門科目がある。みんないっしょではなく、自分が選んだ授業を受けている。分かれたりいっしょになったりして授業を受けている。教養科目の場合は、健常者の学生といっしょに授業を受ける。この授業は専門科目で、この科目に関しては障害のある学生が多い。

──いっしょになる教養科目はたとえばどんな科目か。

キリスト教科目、社会奉仕科目などだ。教養科目で、一般学生といっしょに交じって勉強するときは、障害のある学生にとって大変なのは事実だ。バランスなどを合わせるのが大変。特にキリスト教科目は、哲学の部類だからけっこう難しい。大変だが、みんな一生懸命授業に臨んでいる。

第3節 卒業後の就労と障害者の雇用環境

教員、学生との昼食懇親会で、学生の就労や障害者の雇用についてキム・ソンギュ教授と意見交換を行った。

──就職先の職種はどのようなものか。

行政事務補助とか区役所、市役所、町役場、それから政府機関に2年契約で就職する事例もあった。そういうところへ就職するためにはパソコンスキルが必要だ。保護者もそういうところに就職してもらいたいと思っているようだ。その他、大企業にも就職している。有名なアパレル店や遊園地などを運営している大型マートなどだ。

いま一番問題となっていることは、障害がある人に対しては就職してからも一定期間健常者が補助しなければならないということだ。職業指導員が入社後3週間支援しているが、3週間では足りない。私は韓国の障害者雇用公団の理事長を経てこの学校に来た。韓国国内で障害者雇用関連のプロだ。その公団理事長時代に改善を試みたが、難しかった。少なくとも3か月の補助は必要だ。

企業にはダブルカウント制度があるため、重度障害者も好意的に受け入れられている。法定雇用率は2.7%。50人以上の企業に適用される。サムソンなどの大企業はたくさんの障害者を雇わなければいけない。

ただ、雇わない代わりに罰金を払う場合もある。罰金は1人あたり50万ウォン(約4.6万円)。ある有名大企業が支払っている罰金総額は年間50億ウォン(約4.6億円)。罰金のうち1,700億ウォン(約159億円)は障害者の就業訓練費に充てられている。

韓国の雇用促進法は日本を真似ている。

──日本の法定雇用率は2%だ(2018年4月以降民間企業は2.2%)。

韓国ではそろそろ3%になる見込みだ。企業はもっと罰金を払わないといけなくなる。

障害者のなかでは、身体障害、聴覚障害の人たちが就業の主な対象だ。現在20万人の障害者が就業している。障害者の総数が250万人であることを考えると、まだ足りていない。障害の出現率が5%。比率に合わせた法定雇用率が必要だ。せめて4%にしなくてはいけない。

──雇用されてない人は福祉施設にいるのか。

そういう人たちもいる。また高齢者など、就業したくてもできない人もいる。就業する能力のある人は100万人。20万ではまだまだ足りない。

第4節 ナザレ大学の障害学生支援センター

障害学生支援センターのユ・ザングスンセンター長(教授)は、同センターについて要旨次のように説明した。

ナザレ大学には障害学生300人余りが在学している。種別は視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害である。障害学生支援センターは、障害学生の入学から卒業まで、その学習、生活、移動、就業を段階的に支援するところである。

一番大きな目的は、学生たちが学習生活に専念できるようサポートすること。ヘルパーは500人余りいる。ヘルパーは授業にいっしょに参加して、手話通訳、代筆、文字通訳などで支援している。車いすも全部無償で利用できる。

センターには、センター長をはじめ7人の専門職員がいて、それぞれ障害領域ごとに専門の先生が担当している。障害に応じてさまざまなプログラムがある。就業のため、地域社会との連携も図っている。

センターの2階は、学生が自由に閲覧できる施設や就業相談室もある。重度障害の人向けに、保護者といっしょに参加したり相談したりできる施設も設けている。

センター内には音声による案内ができる電子音声案内図を設置しているほか、階段や段差、傾斜をなくしたバリアフリーで、車いすに座った状態で自由に移動できる。

すべての障害学生たちが学習を受けられるよう、段差や高さを調整できるデスクが使われている。視覚的に情報を得ることが難しい視覚障害者も、音声による支援モニターがついていて、音声で情報を得ることができる。

全体的に3台のカメラが設置されていて、撮影している。講義をする先生、手話通訳者、そして学生が勉強している姿も教室内のモニターに映す。たとえば、本人が動かなくても座ったままでボタンを押せば、その学生を映して、質問する姿を全員が確認できる。学生がよく受ける科目はここを利用している。

20科目以上のさまざまなプログラムをこのセンターで教育している。パソコン教育ができる部屋、いろんなガイドブックを設置している部屋もある。また、学生たちの小規模なグループ活動や、試験勉強、書籍資料の閲覧などいろいろなことができる空間もある。作文活動を向上する教育も行っている。

1階には障害学生の保護者が休める部屋があり、2階には障害学生が休める部屋も備えている。ストレス等でクールダウンしたい時などに利用する。

また、視覚障害者向けの点訳がらみの教材づくりや、点訳の先生が仕事をする空間もある。依頼や委託があれば、テキストや支援のプログラムもある。

センターでは、就業に向けた資格取得に関する教育も行っている。就業してからの適応関連のサポートなどの事後指導も行っている。

──一般の学生が障害のある学生を支援するのか。

ある障害の学生が、自分とは異なる障害の学生を支援するケースもある。また、比較的障害の軽い学生が、より重い障害学生を支援するケースもある。

同じ授業を受けている同学年の学生から、支援する学生を選ぶ場合もある。時間割を提出すれば、そのなかで選定される場合もある。学年よりも時間割を中心にして調整、配置している。

ヘルパー学生が、自分の授業がない空き時間に支援する場合もある。

──支援する学生側も、自分の授業・学習もあるので大変ではないか。

教育する、指導する、教えるというより、代筆など主に補助することを行っている。推薦人制度もある。学習能力がけっこう優れている学生が、自分の授業時間以外で下学年の後輩学生を支援する場合もある。

──一般教養や福祉の専門外の先生たちの研修はどうしているか。

先生が学校に入職すると、学生たちの指導に出る前に、学校レベルで研修を行っている。障害学生を指導するわけだから、授業を担当する前に素養教育やたしなみ教育はしっかり行っている。障害理解に関する教育は、障害専門の先生が来て指導している。

第5節 ナザレ大学の生活館、自立生活支援センター、補助工学センター

1 生活館

生活館は寮である。生活館は男子学生と女子学生に分かれてそれぞれにあり、学生たちはそこで生活指導を受けながら生活している。担当するキム・ジョンミン先生が案内と説明を行った。

生活館では2016年現在、男女合わせて1,150人余りの学生が生活している。そのうち障害学生が150人くらいである。新築している建物もあり、さらに300人くらい増える予定だ。

障害学生1人に対して一般学生3人がいっしょに生活できるシステムだ。障害学生が多くなる場合は一般学生を2人にすることもある。障害学生と一般学生がいっしょに生活できるよう指導するシステムがある棟もある。

2階は、比較的重度の障害学生が生活するところで2人部屋だ。一般学生と障害学生が生活する。

室内は、窓の開け閉めも冷暖房もリモートコントロールできる。

──障害学生の生徒指導とは具体的にどのような指導か。

外出や外泊、ルームメイト同士のトラブルの対応のほか、キリスト教系列だから生活館内での礼拝儀式などについて指導している。

──障害がある人とない人のマッチングはどのように行うのか。

学生支援センターの先生が相性でマッチングする。障害学生から「この学生と組みたい」という意見を聞くこともある。

──これまでにケンカなどのトラブルはあったか。

もちろんある。そのトラブルに対応するために生活支援センターと連携している。ヘルパーの学生は専門家ではなく、専門的知識に限りがあるから。

──ヘルパーはなりたい人がなるのか。まったくなりたくない人はならないのか。

ヘルパーを志願する人には奨学金が出る。それが促進剤になっている。

──お風呂はあるか。シャワーのみか。

浴槽はない。安全バーがある。重度障害のある学生には一般学生が入浴の世話する場合もある。風呂場で使用するいすなどが必要な重度の学生に対しては、依頼すれば補助工学センターで用意する。

──必要なものは大学で用意されるのか。

個人的に購入する場合もあるが、必要なものは基本的に学校が用意する。

──寮費などの負担はどのくらいか。

3か月で75万ウォン(約7万円)、ヘルパーの学生は3か月49万ウォン(約46,000円)くらいだ。

──掃除は誰が行うのか。

自立心を養うため学生が自分で行う。障害があっても自分でできることは最大限自分で行うようにしている。靴入れやゴミ箱の掃除、ゴミ収集なども行えるのであれば行う。

──自閉症の人のパニックなどはあるか。

1学期に1、2度ほどそのようなケースがある。舎監の先生が午前0時までいる。非常時はいっしょに舎監室にいる。それ以上に深刻な場合は保護者に連絡を取る。

──医療が必要なケガなどになったことはあるか。そのときの対応はどうしたのか。

深刻な場合は救急に連絡する。階ごとにフロア長の学生がいる。体力があり丈夫な学生がなる。そういうときにフロア長が活躍している。

──多人数の食事はどのようになっているのか。

1階に食堂がある。食事を取りたいときは食券を購入して、各自が自由に食べる。

2 自立生活支援センター

生活館内にある自立生活支援センターセンターについて、ウ・ジュヒュン同センター長(教授)が要旨次のように説明した。

障害学生の自立を支援するセンターは、韓国ではナザレ大学のみである。120人余りの障害学生の自立を支援している。

一番の事業は障害学生ヘルパー事業である。障害学生支援センターでは学習支援を主にしているが、ここでは生活全般の支援を行うことに重点を置いている。日常生活からスタートしてほかの地域社会との連携に関する支援の一部も行っている。

生活館では1室に健常者3人と障害者1人で生活しているが、その3人のうちの1人がヘルパーとして活躍している。その学生には所定の奨学金や支援金が支給される(トウミ制度)。それほどの責任感をもってがんばれるように支援している。

奨学生の学生と一般の学生がいっしょに生活できるように配置して、教育をしたり、相談をしたり、もめ事が起きたときは仲裁したり、また自己管理も徹底的に行っている。

──重度の学生とは身体の重度か、それとも知的の重度か。

種類はいろいろだが、2階は身体障害の重度だ。何か起こったときにすぐに支援できるよう自立生活センターや生活館事務室、その他相談室などを近所に配置している。

──地域との活動とは具体的にどういう活動か。

2階の重度障害学生の場合、1人のヘルパーが支援のすべてをカバーするには限りがある。ヘルパー学生も学生なので、学校の授業をきちんと受けられるようにするため、地域社会のボランティアなどの機関と連携して、地域社会の活動補助のサービスも利用できるようにしている。重度障害学生と一般学生1人、それから外部の支援活動をする地域社会の補助と連携して2対1の体制だ。もちろん、生活館で生活する際にはヘルパー学生と2人で、外部の人は後で入って体験しながら補助をする。

障害学生への自立生活のための支援プログラムを行っている。障害学生当事者同士で集まって小規模なグループ活動をしながら、自分の力量の強化や、学習ができるようにしている。その他性教育なども重要だ。ほかにも、健全な社会生活が送れるような支援プログラムを行っている。

また、相談室の運営を行っている。そこでは主に障害学生を取り扱っている。相談の内容は主に進路や学校生活についてだ。ピア相談室もあり、同じ障害学生が障害学生の学校生活全般の相談を受けたりする。

現在は視聴覚の重複障害者がピア相談員として活躍している。奥さんが通訳をして、1週間に5〜6件の相談を受ける。学生は同じ障害のある相談員に腹を割って自分の悩みを相談している。視聴覚の重複障害を持っているので、指の上に点字(指点字)を打って会話している。

このピア相談員はドキュメンタリー映画「かたつむりの星」に出演した。アムステルダム映画祭で大賞を受賞し、日本でも紹介された。

──奨学金をもらえるからと、経済的に困っている学生がヘルパー制度を利用していることもあるか。

申請優先だ。支援金がほしいから申請するケースもある。リハビリ学科などの専攻学生が、生活のなかで実際にふれあいながら経験していきたいとの思いで申請するケース、人間リハビリ学科や社会福祉学科、特殊教育学科、体育教育学科などの学生が申請するケースもある。

──障害学生と共同生活することで、一般学生は障害に対する見方や理解は進むか。

生活館に来て、学生たちがこれまでしなかった経験を積むことで、考え方などが違ってくる。いっしょに生活しながら、必ずしも肯定的な効果だけではないが、偏見をもっていた学生が肯定的になる場合もある。

健常者と障害者との関係は、頻繁にいっしょにまたは別々に相談して確認している。マッチングで長い間不具合がある場合は、人を変えることもある。逆にマッチングがうまくいっている場合は予定よりも延長する場合もある。

障害者にとっては、社会進出する前の関門のような役割を果たしており、健常者の社会でいっしょに生活できるようなスキルなどを積んでいく。

──その期間は……。

1年が基本だ。うまくいけば長期間に延長する場合もあるが、前提がある。あまり親しくなり過ぎないことだ。2人が一生いっしょにいることはできない。親しくなり過ぎてエチケットが守れなくなる場合もある。それが社会進出を妨げ問題視されることもあるので、期間を限定している。

──この生活館のシステムは画期的だと思うが、世界にこうしたモデルはあるか。

まったく同じシステムがあるかはわからない。最初に統合システムをつくるときに担当の教授がアメリカへ行き、そこで障害者と健常者がいっしょに生活する統合生活に着目し、参考にした。

──韓国は2000年代から統合教育を行っていると聞いている。その世代が現在の利用世代になっていると思うが、大学に入るまでの障害者と健常者がともに学ぶ経験や学んできたことが大学での共同生活に活かされているか。

韓国の統合教育のシステムは2004年度から始まった。まだ統合教育の歴史は浅く、大学で初めて経験する人も多い。一番難しい対象は発達障害の学生だ。

──これから社会に出ていくためには、困ったときに学生自身が相談したりほしいサービスを要求したりできることが大切だと思う。ここでもいろいろな支援を障害学生から要求する力はついていっているか。

たくさん増えている。システムも障害学生の要望をもとに運営されている。たとえば、車いすに乗ったまま移動できるところは学校内で十分自由に移動できるが、視覚障害者にとっては点字による環境整備が不十分だ。障害学生が友人に頼んで写真を撮り、不十分なところを関係者にアピールするなど、学生からの要望で拡充している。

──リハビリ自立学科と生活館はどちらが先にできたのか。

リハビリ自立学科を最初に開設し、生活館は後からできた。バリアフリーなどは学校ができた頃から配慮してきた。

──生活館ができたことによって、リハビリ自立学科に行きたい学生が遠方からも来られるようになったと理解してよいか。

リハビリ自立学科のうち40%が生活館で生活している。それ以外は通学している。40%の学生たちは生活館のおかげで入学できている。生活が安定しないと大学生活がうまくいかないので、生活館の影響はある。

──スタッフは忙しいか。増員してほしいか。

とても忙しいけれども幸せだ。やりがいを感じる。多ければ多いほどいいだろう。障害のある学生が順調に授業を受けられるようにするには、ベースとなる生活を充実しなければならない。生活の部分をよくするためにはたくさんのスタッフがほしい。

3 補助工学センター

ナザレ大学の補助工学センターでは、障害者向けの補助器具が展示されている。ソン・ビョチャン同センター長とキム氏が案内しながら、器具の説明・紹介を行った。

聴覚障害者用のランプや振動で状況を知らせる器具、視覚障害者用のバーコードから内容を読み上げる器具や点字キーボード、肢体不自由者用の多種多様なマウスやキーボード、あるいは食事器具、電動・手動の各種車いすのほか、入浴や排便の補助具、生活関連やスポーツ用の補助具など、さまざまな補助器具が展示されている。

──一般の人や学生が利用したいと思ったときに、ここに来て相談したり業者と連絡を取ったりできるのか。

直接購買することもできる。業者の電話番号だけ知らせることもある。

──日本では車いすを購入すると何割かの公的補助があるが、韓国ではどうか。

障害がある人たちはもともと登録していると思うが、福祉カードがあれば9割くらいが免除され、負担は1割くらいになる。

──日本の理学療法士などのような、補助具に関してリハビリを支援する国家資格はあるか。

補助工学士、技師工学士などがある。1つの学部で学習を積み重ねて、2種類の資格のうちの1つを選択して進路を決定する。リハビリ工学科はナザレ大学にしかない。

第6節 総括質疑──カリキュラムや入試から性教育、障害受容まで

一通りの視察を終えた後、キム・ジョンミン氏、キム・ソンギュ教授、チェ・ドゥクジン教養学部教授ら大学関係者を交えて懇談した。最初のキム氏の説明を受けて質疑応答が始まると、話がどんどん膨らんでいった。

1 性教育の重要性

このナザレ大学で勉強し、生活する4年間の経験がその学生の青年期、ひいては人生や生涯全体で最も大切なものとなるだろう。この時期にきちんとした教育を受けて社会に進出できるかどうかが、その後の人生・生涯に関わる。

一般の学生は入学して勉強し卒業して就業し、社会人としてお金を稼いだり、生活したりするが、障害のある学生はそういうことをそのまま真似する訳ではない。自立の意思をもって働く過程から感じるやりがい、または生きていく上での目標など、生きる意味を感じられるようにすることが最も大事だと思う。

結局、人間は幸せになるために生きている。一般の人の人生をそのまま真似していきなさいという支援はしない。障害者が社会に出て行くということは、生き方など哲学的なところに広がるかもしれないが、それぞれが人生の意味を探り、それぞれの幸せな人生について考える。そういうことを満喫しながら生きていけるように支援していきたいと考えている。

同じ世代でも障害者は健常者と違い、さまざまなジレンマをもち合わせている。知的障害者は知的に発達が遅いが、身体障害者は血気盛んな若者だ。アンバランスなところの均衡を図るためには繊細で専門的な指導が必要だ。

絶対に避けて通れないものは性教育だ。保護者向けの性教育を予定し、まずは両親の性教育から始めていく。学校と両親が連携して、若者たちの健康な性のためにいっしょに工夫したり考えたりする機会をもつことが大切だと考えている。

──生活館でも性関係のトラブルはあるのか。

当然ある。あるからこそ健康な証拠だ。そのトラブルにどういう手法でアプローチして問題を健全に解決していくのか、私たちはほかの機関よりも努力や工夫を辛抱強く考えている。

また、障害のある人たちの立場は弱いが、逆に一般の学生が障害の困難さを体験する機会をつくっている。困難さを経験することで、お互いのトラブルを予防する能力や、トラブルを適切な方法で解決する能力を養うことにもなる。

障害の有無にかかわらず、こういう経験が人生の大事な財産になったり、将来いっしょに社会で暮らしたときの助けとなったりすると考えている。

──男女の生活館は中でつながっているのか。

2階だけはつながっているが、ほかの階は分離されている。2階は重症の学生が多いので、事務室から素早く対応できるようにしているからだ。

以前、ほかの階にいる知的障害のある男子学生が2階の通路を使って女子学生の部屋に行くことがあった。学生が、異性の生活しているエリアにやたらと行くことは禁じられている。

──学生の数を考えると、一般の学生だけの部屋もあるのか。

生活館の後ろに建物がある。350人くらいの定員だ。留学生と一般学生だけが生活している。留学生も一側面では、言語に障害があるといえるだろう。留学生が生活館を利用するのは、事務所が近くすぐに支援が受けられて便利だから。もちろん一般学生が生活している建物に障害のある学生が入っていけないわけではないが、バリアフリーの環境ではないのが現実だ。

2 アルバイトと学生の経済的側面

──生活館でお祭りのようなものはあるか。

生活館独自のもので楽しい。大学がキリスト教だから、礼拝堂で行うこともある。礼拝堂の存在が生活館の円滑な運営につながっている。霊的、精神的な支えだ。

──生活館の基本理念のなかに信仰があるのか。

キリスト教の教えにしたがって生活・活動している。

──学校が休みのときは、自由に過ごしているのか。

学校で学習活動がある場合には「学校に残ります」という申請書を提出する。外に出ずに生活館に泊まることができる。奉仕活動や実習、資格検定に向けた準備クラス、公務員試験準備などさまざまな活動がある。

──アルバイトをしている学生はいるか。

いる。たとえば按摩士。按摩の資格をもっている学生も多い。

補助工学センターに点字の紙をモニターに映す器具があるが、器具の作成過程で点字に関する知識のある障害者が求められる場合がある。そういう製作会社や機関でアルバイトをする場合がある。そこでは課題やノルマが与えられる。1日何枚くらい作るなど、一般の人が翻訳のアルバイトをするのと同じだ。

ほかにも、コンビニのレジやレストランのホール、マクドナルドやロッテリアでも知的障害者のアルバイトが増えている。アルバイトとして働ける場所がたくさん増え、正職は難しいが、社会経験を積める環境がたくさんある。

──入学してくる学生の家族は熱心で経済的にも余裕のあるところが多いか。

経済的なゆとりがある家庭やそうではない家庭などさまざまだ。奨学金の支援を受けている学生もいる。

──身体的な障害がある人は成績に応じた奨学金を受けることが想定できるが、知的障害がある人も奨学金を受けることができるのか。

リハビリ自立学科の学生のうち100%の学生に知的な障害がある。そちらでもほかの学科と同様に、成績が伸びていることを証明できれば奨学金を受けることができる。

3 難関の入学試験

──入学試験は難しい。倍率は5倍だ。

二次まで試験がある。一次試験は基礎学力検査。国語、数学、英語、エッセイ、職業能力評価がある。その日の午後は面接。そこで定員の2倍にまで絞り込む。

一次試験をパスした学生に限って二次試験を案内する。面接試験を行う。例年は大集団活動テストなどだ。たとえば体育活動。組別に何か体育活動をする。学生それぞれの特性や性格があらわに出る。

もう1つは美術プログラムだ。たとえば、「家を描いてください」と指示してから、「この家を描いた理由を説明してみてください」と説明を聞く。そうすると、学生のそれぞれの長所や短所をだいたい把握できる。

当日午後は、両親といっしょに面接をする。父母といっしょの面接は成績には反映しない。

父母といっしょの面接の前に深層面接がある。短い短文を提示して「それを読んでみてください」と指示する。そして、その文章についていろいろな質問をする。その答えを聞いて学生の長所や短所を把握する。

親との相談のときは現実的なところも話す。4年間お金もかかるので「途中でやめることはないですか」とか「学生の支援や後援はどういうふうにやっていきますか」などを尋ねる。

これらの試験の結果をまとめて25人を選抜する。その際、万が一の辞退などを考えて10人程度の補欠も選抜する。実際は、途中であきらめる人はほとんどいないからそれは該当しない。

試験で不合格になって浪人し、2回3回と繰り返し受験する人も多い。これまでの新入生選抜システムは長い間やってきたのでほとんど知られている。そこで新たなシステム、パターンで行うことも検討している。

──1年間の大学の学費はどれくらいか。

1学期(3か月)に390万ウォン(約36万円)かかる。4年間勉強を続け、食事や小遣いなど全部含めると5,000万ウォン(約463万円)程度かかると思う。先ほどの親との相談では必ずこういう質問をする。「たくさんお金がかかりますが、最後までがんばれますか」と。

──日本では保護者は進学を希望している。しかし学校の先生たちはとにかく就職に向けて活動したほうがいいという。韓国で学校の先生は「ぜひナザレ大学に行きなさい」とすすめるのか。

そうだ。

4 キリスト教系列だからこそ

──韓国にこういう先進的な大学があることは素晴らしい。

キリスト教系列の大学だから可能なのではないか。韓国唯一の障害者向けの専門的なシステムや組織がある大学で、たぶんほかにないと思う。

ナザレ大学も、知的障害者向けの学科を新設するのは勇気が必要だった。2008年度に国会に行って知的障害者向けの学科新設について世論に働きかけ、2009年度に各地、各方面の人から支援を受けて学科を新設することになった。発達障害学生の人数が増えてくれば、自然に知的障害のある障害学生の人数も多くなる。知的障害のある学生向けの特別な管理や指導システムが必要だという総長の考えのもと、みんなが同じ意見を出した。

ナザレ大学のいまのプロセスなどを見て、ほかの大学でもこのような学科を新設したがっている。しかし、実際に学生たちをどう管理したらいいのか、ノウハウがないから躊躇している。

ほかの大学の知り合いからいろいろ相談を受ける。私たちがいうのは、自信をもって知的障害学生をコントロールできないようでは、最初からスタートしないでほしいということだ。

これからもう1つ知的障害者を受け入れる大学ができるかもしれない。すると私たちの大学とは競争関係になるだろう。これはよいことだと思う。いい意味での競争ができるかもしれない。お互いに切磋琢磨し発展し合うから。

韓国の障害者は24万人だ。去年、韓国では発達障害関連法が成立した。この法律には大学の教育や障害教育についての内容が盛り込まれているから、これからも障害者の親たちのニーズなどが増えてくるのではないかと思う。

このような雰囲気のなかで、ナザレ大学は知的障害関連システムをもっとアップグレードしていくと思う。自分の希望や夢をいうと、ナザレ大学が中心的な大学になって、ほかに知的障害者がらみの大学が増えてきたら、いろいろなノウハウなどを指導する存在になりたいということだ。

──すごくハードルの高い知的障害者の履修クラスをつくるのに、その原動力となったのはやはりキリスト教的な考え方があるからか。

それが一番大事なことだ。ナザレ大学に入学した学生は、みんな礼拝をしなければいけない。信仰心は必要だ。信じられる何かがないと。

──希望者が多いが、これから定員を増やす計画はあるか。

悩み中だ。学生の人数を増やすと、それによって指導職員なども増やさないといけない。考慮してしなければいけない。増やしてほしいとの保護者の意見もある。「どうしてクラスの定員が25人なのですか、定員を増やしたらうちの子も行けるじゃないですか」と。いろんなことを考慮して、教員と学生の数がある程度マッチングできないといけない。

韓国の大学の重要資料がある。1つ目は入学率、2つ目は在学率、3つ目は就職率だ。教育機関はこの3つを見て大学を評価しランキングづけをする。リハビリ学科も正式な学科だから、一般大学と同じようにこの3つを遵守しなければいけない。

クラスの人数を増やすことによって就職率が落ちてしまえば意味がない。そういうことも計算している。入学率とつながる学生の人数は、就職率に反映するから慎重にいく。ここはデイケアセンターではない。現在の就職率は80〜90%だ。人数が増えてそこまでできるか心配だ。

だから人数が増えたら、それに合わせてさらによいプログラムを組んで、展開しなければいけない。

5 学位を得られる唯一の大学

──卒業したら卒業証書は得られるのか。

卒業したら、一般大学の卒業生と同じように正式な学位が与えられる。ほかの障害者関連の教育機関も教育はするが、大学を卒業した人と同じように学士を与えない大学はいくつかある。3年課程や4年課程などいろいろあるが、障害教育課程のような機関では修了証は与えられるけども学位は与えられない。

──アメリカのマサチューセッツ州立大学やUCLAなど、数人の知的障害者を受け入れている大学を見てきたが、どこも学士は与えていなかった。カナダやオーストラリアでもそうだった。

ナザレ大学のケースが唯一で、独特なケースだと思う。これについてはもちろん議論がある。知的障害のある学生も高等教育を受ける権利がある。この権利があるということは、同等にお金を払っていろいろな課程を履修する権利があるということだ。

それが問題ないと考える理由は、彼らも自分なりの競争を突破して入学をする。一般学生が入学試験で競争をして入学するのと同じだ。激しい競争を経て入学するから何も問題ないと思う。

──ほかの国にあるナザレ大学に、同じような学科はないのか。

発達障害者だけを受け入れている学科は見たことがない。聴覚障害者や視覚障害者の専門の大学はいくつかある。アメリカにもあるし、茨城県のつくば技術大学には見学に行った。

ドイツに行ったとき、発達障害者を対象にして農作業を教えている学校を見たことがある。ドイツは農作業をしている人が少ないので、人材活用しようということだそうだ。しかし、正式な大学ではなく専門学校レベルだった。てんかんなどの疾病を患っている人向けだ。その学校では教会をつくっており、日本の教会と連携して運営している。職員全体がてんかんを患っている人を雇用している。発達障害者だけという学校はない。

6 障害受容をめぐって

──学生の障害受容はどの程度進んでいるのか。

学生全員が、自分はこういう状態だとはっきりと理解している。こういう認識ができなかったら社会に出て適応できないから、自分のことをしっかり知った上で勉強をして社会に出る。

境界性障害は正常と非正常の境にある。そういう場合、学生は自分が正常か非正常かはっきり認識ができない。先生たちは機会あるごとに、自分の障害を素直に受け入れるように指導している。またそこでは、自分自身の選択と責任を強調して指導している。

3年生になるまで、パイロットになりたいという非現実的な夢をもっている学生もいる。そういう学生には、真剣に現実を受け入れるように指導することも重要だ。

──ゆたかカレッジの学生は、障害受容が難しいところがある。自分の障害を相手に伝えることが難しく、どうやって障害を受容できるようにするのかが課題だ。

障害があることは誰もが認めたがらない。実際、買い物もなかなかできない。彼らの目線に合わせて何度も伝える。自分の能力をわきまえることで、社会に出ても適応できるような人材になる。

1年生、2年生のときは衝撃になるので、できるだけ慎んでいるが、3年生4年生になると次第に学校に慣れて適応してくるので、それに合わせて少しずつ度合いを高めていく。「あなたは、こういうことができない」など、限界があることを伝える。ショックにならない範囲で少しずつ範囲を広げながら指導していくしかないと思う。

ほとんどの保護者は、自分の子は現実より能力が高いと過信している。卒業してから就職先で、行政補助など事務的な仕事がほとんどできると思い込んでいる。企画力が乏しいのは事実だ。

ワープロも補助程度のレベルなのに、保護者はもっともらしい役職や立派な仕事先などを求めるので困ってしまう。入学するときは「無事に卒業したらそれで満足します」といいながら、4年生になったら「これくらいの仕事にしか就けないのか」「先生もう少しがんばってください」などといわれる。保護者と先生の関係でもめごともあったりするが、尊敬する関係だ。現実のところで十分考慮して、学生の好みの分野に指導していく。保護者と先生たちの意見の違いをどれほどしぼっていくかが課題だ。

7 カリキュラムと単位

──普通の大学とは違うカリキュラムも入っていると思うが……。

カリキュラム自体は異なっているところはないが、それらのカリキュラムのなかに学生たちが取得できるプログラムが入っている。

──見学した授業「ビジネスマナー」はどういうカリキュラムか。

「職務技術」だ。主に職業関連のことを教えている。就業専門家だから。そのほかに、学生たちの心理や協調性などはほかの先生が指導している。教養科目は統合科目だから一般学生と同じだ。専門科目だけは障害のある学生が中心だ。

問題は、教養科目を受けたら一般学生と競争しなければならないから、教養科目は点数が低くなる。だから保護者たちは「教養科目も成績がよく出るように、障害学生同士でやればいいではないか」といっているが、先生たちは違う。教養科目で一般学生と触れ合いながら、一般常識などを見習うことができる。長所を勉強することができる。「点数が低いと成績が低く出るから」という理由で障害者同士のクラスをつくると、過保護になってしまい発展がない。

──障害のある人とない人の期末試験の問題は同じか。

同じだ。レポートも同じだ。だから教養科目は大変だといっている。一般学生と競争だから。

──トータルで取る単位の数も同じか。

4年間で127単位を取らないと卒業できない。一般学生も同じだ。

──専門の単位と統合の単位を合わせて127単位か。

そうだ。合わせた最小限が127単位だ。1単位でも足りないと卒業できない。

──留年する人もいるか。

大変だと思った学生は留年するより休学する。学生同士の問題や経済的な問題もある。

障害学生と一般の学生たちとの競争は、現実的には難しい。だから、実際には彼らだけの評価をするようにしている。さまざまな配慮をしている。障害学生は一般の学生よりも勉強熱心だ。

配慮はあるが、結果的に試験もレポートも同じだ。

──障害学生の一生懸命さを健常の学生が見習うこともあるか。

ある。いい刺激になる。評価がA+になる障害学生もいる。一生懸命やっている結果だ。ほとんどの人が出席率は100%だ。学校に来ないと大変だと思っているから。みんな、学校に来るのが大好きだ。

専門科目では、障害学生同士だから自分の実力より少し点数を与える。「下駄をはかせる」「称賛はくじらも踊らせる」というように、ピグマリオン効果を狙っている。

学科の定員の30%は奨学金をもらって勉強している。上位5位までは成績奨学金、3人くらいは学年の役員をして奨学金をもらっている。経済的な理由で奨学金をもらう学生は30%ぐらいだ。企業団体からもらえる奨学金もある。

父親が子どもの大学の支援金をもらえる会社に勤めていれば、ナザレ大学は正式な大学なので、それをもらうことができる。国家奨学金も十分もらえる。

──大学の教授が、知的障害者の授業を教えるのは、小学校中学校レベルの授業になってしまうので理解ができないと思うが、苦労はあるか。

全般的なところではないが、知的水準の発達がゆっくりな学生を教える教授は、世間体がいいとはいえない。だから外部から専門の機関や企業の機関からプロジェクトとして受け入れる場合がある。そういう場合には、教授陣が除外されるケースがある。

個人的には、いまのクラスの学生たちに教えられるスキルは、ほかの有名大学の修士マスターや博士課程の学生を教えるスキルより、もっと高いと思う。

第7節 身近で具体的な目標

私たちはこれまでアメリカやカナダ、オーストラリアなどの知的障害者を受け入れている大学の視察を行ってきたが、こんなに身近な隣国である韓国にこれほどすばらしい取り組みを行っている大学が存在することを知り、まさに目から鱗が落ちる思いであった。

とりわけ私たちが感銘を受けたことは、知的障害者を正式な「ナザレ大学大学生」として受け入れ、所定の単位を取得したら知的障害者も学士号を取得できることである。また、生活館やトウミ制度という画期的な仕組みにより、教育と生活支援が車の両輪の如くしっかりと行われている点である。さらに、生活館や1、2年次の授業では、障害学生と一般学生とが完全にインクルーシブな環境で生活できている点がすばらしい。

一般学生にとって、障害者に対する偏見や差別をなくすためにとても有効な取り組みだと考えられる。ナザレ大学という具体的な目標が見えたことで、私たちもなお一層、知的障害者の高等教育保障に向けて奮闘していきたいと心を新たにした。