Qualification acquisition support
●映像技術に特化した3年間のプログラム
Exceptional Mindsでは、障害をどうしていくかではなく、もっている能力が「何であるか」「どう伸ばしていくか」を初めに考えて学校づくりをしてきた。 学生のなかには、あまり話すことができない(ろうあ者)、物事を理解するのに時間がかかる、あるいは社会的コミュニケーション(ほかの人との関係をうまく理解できない)など1つのドアは閉ざされていても、必ず開いているドアはあるはずなので、その人にとってどういう方法で学んでいくのが一番いいのかを考えている。9年前にこのプログラムを創設したが、そのときは9人の学生がいて、これがうまくいくかいかないかは、まだはっきりわかっていなかった。 私ともう1人のパートナーは2人とも映画業界から来ている。パートナーは、映画監督で何度か賞も取っている。私自身は映画やアミューズメントパークなどの美術方面の仕事をしてきた。小さなスタジオを持っていて、ディズニーの美術制作の仕事を12年間と、ユニバーサルの映画制作の仕事をしていた。 パートナーの女性には自閉症の息子がいる。自閉症の子をもつ親と同じように、どうにかして自分の子どもの能力を引き伸ばせるところはないかと探していた。自分は自閉症についてまったく知らなかったが、自閉症の子をもつ親たちから、私のスタジオのような環境で自閉症の子たちを集めて学校を始めてほしいといわれ、専門家を集め始めた。 毎週、自閉症の専門家を招いて、職員たちに自閉症や発達障害のある子どもたちにどのように接したらいいか研修を始めた。3年が過ぎ、もともとはコンピューターグラフィック、デザイン、アニメーション、特殊効果などの技術者たちが、最新の自閉症の知識をもつ職員となった。 そして我々がつくったのは3年のプログラムだ。アドビ社と提携して、フォトショップやフラッシュなどグラフィック、映像用のさまざまな特殊効果のアプリケーションの使い方を伝えた。 映画業界、美術業界だと、これらのソフトが使えることで認定資格がある。このプログラムに参加した学生たちは、同じ資格を得ることができる。この認定試験は、講習を受けている生徒たちがすぐに受かるものではない。わざと引っかけ問題があって、それを間違えずに正しく答えなければならない。 普通、こういう障害のある人たちはトリックにはまってしまう。だから、いかにしてトリックやハードルに引っかからないよう解答し、資格が取れるかを教えている。 驚くべきことに、このプログラムを始めて4か月後には、認定プログラムに参加した全員が最低1つ、多い学生は4つのソフトの資格認定を得た。そして認定を得た後は、実際に映画業界や美術業界でそれらのスキルを使って仕事に就くためのプログラムをつくった。 心理学の先生を週に1回招き、職場で皮肉や批判的なことをいわれたときにどう対応すればよいか、あるいは異性と仕事をするときにどう対応するか、上司にどのような対応をするかについて研修をした。また、仕事を得るための面接、仕事をするときに覚えておかなければいけないさまざまなテクニックを教え始めた。 実際にエレベーターのドアの前に立って30秒間、自分の宣伝、売り込みをする。自閉症の子どもにとって30秒という限られた時間で自分のことを話すのはすごく難しいことだが、だらだら話さないで30秒で話すという訓練が大事だ。 自閉症の発達障害のある子どもたちには、台本をそのまま読むのがとてもやりやすいとわかった。特性として、ルールがあればそれに従って行動するというものがある。ところが本人たちがつくると、それが合わない場合がある。そこで学生と教員がいっしょになって、どういうルールに則って台本をつくったらいいのかを話し合い、面接などでの台本づくりをした。 我々が行っている授業の内容は、実際に業界で使う技術や資格などの取得というテクニカル面と、もう1つはどういう行動をとったらいいかという行動学だ。美術や映画産業で働くために必要なスキルを身に着け、実際にその業界で働けるようにするのが目標である。 3年間のプログラムのなかで、初めは基礎的なものを身につける。その後に実際のデザインやいろいろな視点、構成について、および分析、理論を学ぶ。3年目になると、実際の映画製作の仕事で実習的なことをしながら学ぶ。 同時に、プログラムのなかで本人たちのポートフォリオやホームページなどをつくり、それをもって面接に行き、実際にどれだけの仕事ができるのかを見てもらう。そして履歴書にリンクをはり、社会に出る準備をしておく。 この学校を卒業すると2つのチョイスができる。1つはここのスタジオで仕事ができる。もう1つはこの近郊にあるスタジオに就職をすることである。 2013年に第1期生8人が卒業した。そのうちの1人は、実際にスタジオで正式に雇用され働いている。初めは週3回だったが、週5回の毎日勤務になって、なおかつ昇進した。 残り7人はここのスタジオで実際に仕事をしていて、今後公開予定の映画のCGの制作などに携わっている。彼らが行っている仕事は、映画のなかでのアニメーションやロードスコーピング、映画のエンディングタイトルの制作などである。●学生の特徴や運営に関して
──学生の年齢層や特徴は。 18歳から30歳がメインのプログラムだ。またプライベートレッスンで12歳から、夏の特別講習として1週間、特定のプログラムを学ぶことができる。夏の2か月間に、2週間のコースが4つ用意されている。そこで4種類の資格スキルを身につけることができる。ほかにもお試しのプログラムがあり、そこから本科に編入することもできる。 いまは1つのプログラムで上限を10人としているが、30人の応募があった。残りの人たちは順番待ちをしている状態だ。より高い能力をもった学生の候補者が順番を待っている。能力が高いというのは、自閉症は重度で能力的には低いけれども、ここで教えているさまざまなテクニックや美術的にはすごく能力が優れている人もいる。 スタジオではプロの仕事として映画製作に関わっている。 私たちがもっている感情の非常に鋭い洞察と、その人の能力をうまく組み合わせたらすばらしいものが生まれてくる。有名な俳優から次のような言葉も贈られた。「あなたたちは天から送られた素晴らしい才能をもっている」
自閉症特有の症状で、同じことを繰り返し話す人もいれば、まったく話さない人もいる。寡黙だけれども、別々のスキルをもってそれぞれの才能を生かして仕事をしている。 私たちがこの事業を始めたときに、それぞれがもつほかの人に負けない特殊な才能を見出している。自閉症は1人ひとりが違う。1人の自閉症の人に会っただけで「自閉症はこういうものだ」と言い切るのはよくない。その人に一番合った学習スタイル、たとえば視覚、聴覚あるいは手を使って訴えたほうがいいのかなど一番いい方法で学び、一番いい才能を出していけるようにケアしている。 1年目:アニメーション基礎を学ぶ。 2年目:製作をどのような形で構成していくのかを学ぶ。 3年目:さらに細かく、スタジオで何をしたらいいかなどを掘り下げて学ぶ。 1年生は描くことから始め、それをCGにしていく。学校全体で現在取り組んでいるプロジェクトに参加して、プロジェクトの管理もしている。そこでの要素になるさまざまなデザインを比較している。スケジュールや業務をメンバーに振り分けていく。初めは基礎だが、併行してほかのプログラミングも覚えていく。 2年目になると、プログラミングを継続して習いながら、映画製作の構成やスケジューリングを覚えていく。2年目は全体像を学んでいくが、3年目になると、就職して自分が担当する部分の役割を考え学んでいく。 ──ハリウッドの近くという地域性があるか。 そうだ。映画業界に特化した形で始めたのは事実だ。講師たちが映画業界に在籍しているからだ。知的障害のある人たちが映画業界で働いて成功するためにはどんなものがいいのか、ということで始めた。 ほかの業界(音楽、経理など)に興味がある人たちも入って来る。同じものをつくるプログラムを書き、ほかの業界でも自閉症の人たちを雇用するために、我々のアプローチを応用できるようにした。音楽業界やメカニック業界など特定の業界に特化した形のプログラムも、コンセプトを流用すればできると思う。 重要なことは、初めから「この人たちは能力がない」と見るのではなく、彼らが興味をもっているものについて、どこを伸ばせば成功するかを信じることだ。 いろいろな地域に学校をつくるなかで、地域の産業に興味をもった学生を集めることができるのではないかと思う。 ──自閉症のこだわりとして、映像やPCが好きな学生が多いのか。 そういう人が集まっている。一般にいわれるように、自閉症の人たちはこだわりがあって、1つのことに集中すると、そこに何か変化があると混乱する。ところが自分たちの好きなことでも常に変化にさらされてしまうので、混乱しないように学習をしている。安全な環境のなかでいろいろな変化も入れながら、そこに柔軟に対応できるように学んでいる。ある学生は、常に誰かが「それでいいの?」と聞かないと次のステップに進めない。誰かが後押しをしている。 2年目だと2つのプログラムを同時進行で学ばなければならない。カリキュラムとしては、以前に学んだことを新しいなかに取り入れて使う。同じことをやろうとしても、いろいろなやり方がある。1つのやり方に固執する必要はない。そういう柔軟性もある。 だから、自閉症の子はこだわりがあって1つのことに集中する、と周りの人が思い込んでしまうと、それだけで制限されてしまうので、ほかのやり方もあると教えている。これしかできないだろうと制限するのではなく、こういうこともできるのではないかとやってみる、絶対できると信じてそれができる支援をする必要がある。意志を後押しすることが必要だ。 ──ここの資金調達はどうしているのか。卒業生の給料は。 家族からの月謝と寄付で賄われている。行政からの資金は入って来ない。立ち上げのときは財団の資金提供も受けられるが、立ち上がるとなくなる。 学生1人に年間3万ドルのコストがかかる。学生と教員の比率は4:1。新しいパソコンなどが必要になる。パソコンのプログラムは技術者用なので、すごく高い。教員の給料は前職の半分くらい。だからお金持ちは誰もいない。 いろいろなところからの寄付が頼りだ。授業料を払えるところは全額の授業料を払ってもらい、裕福ではない人たちは払える分を払ってもらい、残りは奨学金で補助してもらう。給料は、カリフォルニア州の最低賃金が時給8ドル50セント。映画業界の最低賃金は12ドルくらいになる。年間の給与が3〜6万ドルだ。
全員が就職できる保証はない。もちろん私たちの目標は全員就職だ。しかし、ある学生は卒業しても何もしたくないと意欲をなくした。卒業して仕事をしたいという意欲がある学生には学校としても、いろんなコネを使って仕事を見つける努力をしている。 アメリカも高校までだといろいろなサポートがある。しかしその後はまったく何もないから、子どもたちの才能を懸念する親たちによって学校をつくろうということになり、彼女が中心になってつくった。将来的な希望、自分の能力を生かした夢や希望を与えようとして親たちが立ち上げた。 家で何もしないとQOLが低くなる。スタジオで働いている人たちは生まれて初めて職に就くことができて毎週、給料の小切手がもらえる。仕事ができることが嬉しくて遅刻することもない。仕事ができることはアメリカ全体に影響を与えていて、そうでないと家にいて生活保護を受けて税金を使うことになる。UCLAのプログラムは幅広い学生を取っている。アメリカのほかの大学や、知的障害のある学生を取っているところは、IQの高い勉強ができる学生を取っている。しかし実際よくよく見ると、勉強がよくできるIQの高い学生よりも、重度の学生のほうが特別な才能をもっていたりする。ここはその才能を伸ばしていくプログラムで成功している。