Qualification acquisition support

各大学視察報告

レジャイナ大学

1 レジャイナ大学の概要

サスカチュワン州にあるレジャイナ大学は、1911年に設立されたレジャイナカレッジが前身である。1925年にサスカチュワン大学付属の短期大学となった後、1974年にレジャイナ大学として独立した。

以来、高水準の学問、実利的な研究および社会への貢献を教育目標に掲げ、世界中で活躍する有能な人材を輩出する道を歩み始めた。2016年現在の学生数は約12,500人、9学部23学科を擁する総合大学である。

知的障害者受け入れの支援は、CFA(Campus For All)のスタッフが行っている。CFAの定員は1学期に12人である。2016年現在、CFAには14人の学生が所属している。

2 サスカチュワン州における高等学校の特別支援教育の現状

学生たちは、高校卒業後に大学に来る人もいるが、多くは高校で特別支援教育を受けた人たちである。サスカチュワン州では高校の特別支援教育にもさまざまな形態があり、学生の特性に応じてさまざまなプログラムが用意されている。

レジャイナ市では1980年から高校における特別支援教育が始まった。それ以前、学生たちは一般の高校生と隔離された特別支援学校に行かなくてはならなかった。レジャイナ市にはいま、特別支援学校は皆無である。

レジャイナ市の高校におけるインクルーシブ教育には、3つの型がある。

1つは「完全なるインクルーシブ教育」である。障害のある生徒たちはそこで、ほかの生徒たちと完全に同じような体験をしている。たとえば「ダウン症があっても、ほかの生徒と同じ経験がしたい」という思いを可能にする。高校において完全なるインクルーシブ教育が実現したことによって高校から大学への移行がスムーズとなり、知的障害学生の大学入学のハードルが下がったという。

2つ目が「部分的インクルーシブ教育」である。インクルージョンアルバータでは、この形態については否定的である。この形態では、支援を必要とする生徒は、高校において少ししか勉強ができない。もし高校で一部分しか勉強ができなかったら、彼らの大学入学は必然的に困難となってしまう。

まだサスカチュワン州に少し残っている3つ目の形式として、1日中一般の高校生と別々に学ぶ学校もある。その高校では、支援を必要とする生徒はほかの生徒と会うことはなく、学習内容も異なっている。

しかし、これは普通ではない。サスカチュワン州には農村部が多く、残念ながらそこではいまでもこの形態が取られている。障害のない生徒が支援の必要な生徒と会うことはなく、「彼らは勉強ができない」という偏見をもっている。ある農村部から出てきた障害のない学生の1人は、CFAの学生とともに学び、友達になり、彼らが勉強をしていることにとても驚いていた。

図はインクルーシブ教育に関する4つのパターンを示している。

・インクルージョン:障害の有無にかかわらず、いっしょに学ぶこと。

・エクスクルージョン:障害のある学生を別にすること。

・セグリゲーション:障壁がある状態。サスカチュワン州の田舎はこれである。

・インテグレーション:いっしょにいるけれども別々のプログラムで学ぶこと。

3 カナダの大学におけるインクルーシブ教育の現状

カナダの大学で、初めにインクルーシブ教育を始めたのがアルバータ大学である。カナダのこの分野で最も進んでいる大学である。レジャイナ大学の人たちは、アルバータ大学のようになることを目標にしているという。

レジャイナ大学にはさまざまな障害のある学生がいる。身体障害の学生は学位取得をめざしている。ダウン症や知的障害の人は、学位は得られないが自分の学びたいことを自由に学ぶことができる。たとえば「自閉症」という障害が幅広いように、同じ自閉症の学生でも軽度の学生は学位を取る一方で、1つのコースに絞って学ぶ学生もいる。

また、この大学にはCFA以外にSFAがある。そこでは、軽度の障害があって学位取得をめざしている学生のサポートが行われている。

4 CFA(Campus For All)の理念と実践

CFAでは学生の「できないこと」ではなく「できること」に着目している。サポートを必要とする学生自身を問題視するのではなく、「何をしたいか」「何ができるか」に注目したいと考えているのである。

CFAの学生は自分の障害について、周囲が決めるのではなく、自分で決めている。また、どんな支援をしてほしいかも、彼ら自身で決めている。大学での学習計画も学生と教員が話し合った上で、自分で決めているのである。

障害のない学生が1枚の絵を描いた。この自画像は、学生が感じている自分のイメージである。「面白い」「幸せ」「頭がいい」「ポジティブ」などと書かれている。学生1人ひとり違うが、このようなイメージで大学生活を楽しんでいる。CFAの学生と学んで、彼らはいろいろなことができるとイメージすることができたのである。

障害のある学生はサポートが必要と考えられているが、そんなことはない。彼らには、自分でできることがたくさんある。障害のある学生には、ともに学ぶ障害のない「パートナー」がついているが、それは決して「ヘルパー」ではない。

障害学生は、CFAのプログラムを利用する必要がある。最初は、彼らの可能性が分からないため、どんなことを学んでいきたいのかいっしょに決めていく。また、彼らの周囲にいる家族などとともに、彼に何ができるかを考えることも大切である。彼らがいろいろなことができると信じることで、彼らの可能性は大きく広がっていくのである。

自画像に自分のイメージを記載している自画像に自分のイメージを記載している

学生たちが人生の進むべき道学生たちが人生の進むべき道

図は、学生たちが人生の進むべき道を指し示している。

・Comfort zone:守られた、安全な場所。

・Stretch zone:学んでいくことで、成長していける。

・Danger zone:誰からも助けてもらえない。

CFAがめざしている目標は「徐々に成長していく」ことである。学生たちを「Stretch zone」まで引き上げることをめざしている。社会が障害のある学生たちの価値を見出すことができたら、彼らは成功できるのである。したがって、障害のない学生たちと同じように、CFAの学生たちにも大学生として本来の体験をしてほしいと考えている。

CFAの4つの柱CFAの4つの柱

CFAにはAcademic(学習)、Social(社会性)、Associational(クラブ活動)、Employment(仕事)という4本の柱がある。これらどれもが同等である。仕事が特別に重要ということはない。学生たちは大学生活を通じて、社会性が学べたこと、友達ができたことをとても喜んでいる。

アルバータ大学では、1学期に複数の授業を受講できるが、レジャイナ大学で受講できるのは1学期に1つの授業だけである。それでもより多くの学生が学んでいる。

CFAには2人のスタッフがいてサポートをしている。学生がCFAに応募してきたとき、スタッフは「何が勉強したいか」「どんな授業を取りたいか」を尋ねる。学部には、科学から芸術までさまざまな学科がある。もし、その学生が自分の学びたいものが分からなければ、テストをして決めていくこともある。CFAの学生は、工学、看護学以外のほぼ全講義から授業を取ったことがある。

なお、レジャイナ大学CFAプログラムで学んでいる学生たちは、卒業しても学位は得られない。また授業を受講しても単位が取れないので、聴講生のようなものである。しかし、試験や課題は一般の学生同様に与えられる。

現在は、CFAのスタッフが課題の内容を学生に合わせて変更しているが、将来的にはその仕事を、授業の内容を熟知している各講義の教授にしてほしいと願っている。CFAスタッフは、教授陣とはよきパートナーでありたいと考えている。そして、教授たちと障害学生たちのために、課題をどのように変更したらいいか話し合っていきたいと考えているという。

教授に「CFAの学生が授業に参加してもいいか」と問うと、ほとんどの教授は「よい」という。もちろん「入らないでほしい」といわれてもその理由をいう必要はない。どんな意見もあり得る。CFAスタッフは審判的な態度は取らない。

CFAのプログラムに参加するにあたって、学費や授業料の実質的な負担はない。レジャイナ大学がそれらに見合う奨学金を出しているからだ。

また大学では、希望すれば寮生活もできるようになっている。

5 CFA(Campus For All)で学ぶ学生たち

エロンさんは音楽の授業を取ってギターを学んだ。シェリーさんは歴史の授業を取った。シェリーさんの友達のシェネルさんは、パートナーとして作文のサポートをした。

学期の初めの2週間程度は、CFAのスタッフが授業に行く。その授業を取っているCFAの学生を全体に紹介し、「助けるのではなく、同じ立場で課題に取り組もう」と呼びかけている。パートナーは1人だけではなく、数人のチームでシェリーさんを支えている。

CFAのプログラムには障害のない学生も必要であり、CFAの学生の目や耳となっている。歴史の授業ではサスカチュワン州の地図を作成した。この課題は、CFAの学生にも変更せずに与えられた。配慮がなくても普通にできることもあるのである。

ある学生は「芸術を楽しむ」という授業を取った。課題では、野球カードを模した芸術カードを製作した。また、iPadを用いて創造的なテクノロジーについて調べた。彼には読み書きよりも聞く方が合っていたので、その特性に重点を置いた。

CFAはどんなときにも、学生たちの特性や長所に注目している。CFAのプログラムはまだシステムとしては確立されていないが、障害・健常学生に一番合った形を模索しているところである。

「聞く」特性が強いかどうか調べるテストがある。レズリーという学生は、教科書をPCの読み上げソフトで音声化して聞き、ハイライトをつけていくという方法で学んでいる。

ジョーダンさんは運動学の授業を取った。授業の最後に教授に向けてノートをつくった。ノートにはこんなことが書かれていた。 「セバスチャン、シェリー。クラスは楽しかった。新しい友達もできた。先生ありがとう。勉強も楽しかった」

障害のない学生は、これまでにボランティア経験のないことがほとんどで、ここに来て初めて障害者と接する。しかし、CFAではパートナーとなる学生にトレーニングは行っていない。現在の「友達」という関係が望ましいと考えている。チューターという上下関係ができないのがメリットなのである。

CFAでは、卒業後の進路支援は行っていない。CFAの学生たちは大学生活でのたくさんの経験があるから、仕事に就くことはそれほど難しいことではないのである。カナダでは、障害者を対象とした教育で、経験を重視した活動を多く取り入れている。だから仕事ができるようになっていく。ある会社では、仕事はその学生のできることや適性に合わせてつくられている。

また、CFAの学生たちの卒業後の支援については、卒業生、同窓生としてのサポートもしていきたいと考えているが、現状では卒業後のサポートは行っていない。

6 障害学生たちのパートナー

一般学生のパートナーは公募などによる募集ではなく、最初の授業で話をして興味がある学生は誰でもなれる仕組みになっている。パートナーの期間は1年間である。

このような方法により、障害学生とパートナーとは友達同士として関係を築いており、多くは卒業後も連絡を取り合っていい関係が続いている。たとえばあるCFAの学生は、大学を卒業して1年後に家族が亡くなったとき、誰よりも先に学生時代のパートナーに連絡をしていた。

パートナーと気まずい関係になったりケンカをしたりするような例はほとんど見られない。あるパートナー学生は、忙しくなってパートナーをやめることになった。しかし、ほかのパートナー学生がいるから問題はなかった。

障害学生がパートナーと関わることによる変化や成長は著しい。とてもおとなしい性格のある学生は、プログラムを始める前はほかの人と話すのが苦手で、怖くて授業に行くのにも誰かのサポートを必要とした。授業が始まる前にはCFAオフィスの前でパートナーをずっと待っていた。

しかしパートナーと関わることで変わった。キャンパス内で知り合いを見つけると「あ、友達だ」と話しかけ、しばらく歩いてまた別の人に「あ、友達だ」と話しかける。誰とでも仲よくなり、性格もとても社交的になったのである。

現在は、会社のオフィスで働いており、接客のときには積極的に話しかけている。初対面の人と話すことも怖くなくなり、性格もとても明るくなった。CFAメンバーのなかで一番成長した学生である。人のお世話をすることで自信をつけて、積極的な性格に変わったのである。

一方、パートナーの健常者の学生も同じように変わる。それは障害があろうがなかろうが関係ない。サポートだけでなくいろいろなことを学んでいる。ほかの人の生活スタイルもわかるようになり、それが自分の生活にも影響している。だからボランティアとしてだけではなく、本当にいい関係がつくれている。

誰でもこのプログラムに参加し関係をもつと性格が変わる。教員たちも学生たちも、誰もがすごく変わっている。このプログラムに関係する前の教員たちは障害についてあまり理解していなかった。しかし、CFAの学生が授業に入ると考え方が変わっていった。このプログラムと関係することで生活まで変わっていったのである。