Qualification acquisition support
カルガリー大学の創立は1966年である。在学生は30,000人、医学部など全16学部、60以上の学科を設置する研究型総合大学である。
カルガリー大学では24年前からインクルーシブ教育を行っており2016年現在、知的障害者はメインのキャンパスに13人、別の学舎であるセントメリーキャンパスに3人の合計16人が在籍している。
カナダではインクルーシブ教育が指向されているが、それが唯一無二の方向として統一されたものではない。現状では、障害児の受け入れ体制が整っている小中学校もあれば、そうではない学校も存在している。
また保護者の考え方も、完全なるインクルーシブ教育を希望する人や、障害特性に応じた専門的な教育を希望する人などさまざまである。それらの選択の権利は最終的に生徒と保護者に委ねられているのである。
また、カナダにおけるインクルーシブ教育の目的は、単に健常児と障害児が同じ物理的環境において生活することではない。もちろん健常児と障害児が同じ環境で生活することは、可能な限り自然な形で地域社会に溶け込んでいきながらさまざまな能力を伸ばしていくという点で柔軟性の成長にはつながっているが、すべての障害児がそのような形にならなければならないと考えているわけではない。あくまで、それを必要とする人にとっての選択肢を権利として保障しているのである。
カルガリー大学には知的障害者を支援するスタッフが、メインキャンパスに5人とセントメリーキャンパスに1人の合計6人いる。通常、1人の障害学生が取る講義は2〜3講座である。授業のサポートの1つとして講義の内容を学生の能力レベルに合わせて変更したり、スタッフが週に4〜6時間ほどいっしょに過ごして学習のサポートを行ったりしている。
16人の障害学生たちは、授業だけではなくそのほかのレジャーや部活、アルバイト、ボランティア活動など、さまざまなアクティビティにも参加している。ある学生は「ダイノス」というスポーツチームに所属しており、試合の際にチケットもぎりの仕事をしている。また、1年前から学校帰りに病院の売店でアルバイトをしている。
障害学生たちは心理学の授業や舞台衣装の歴史を学ぶ授業、演劇についての授業などを受講している。
ローリーさんは知的障害を持つセラさんの母親である。ローリーさんは、以下のように語っている。
「娘セラは、5年間カルガリー大学で演劇を中心に学び、この春めでたく卒業しました。セラは、障害をもって生まれてきたことで、いつも不公平な扱いを受けてきました。学校に行き、いよいよ高校を卒業するというとき、ほかの健常の生徒さんが大学に行くという選択をし、セラにもそういう機会をもたせたいと思いました。大学のサポートプログラムにはとても感謝しています。セラはたくさんの授業を受けることができました。大学生活では、スポーツクラブの一員となりました。そこでもさまざまな活動に参加していました。娘は、大学で社会性をしっかり学び、成長していきました。これからよりよい人生を送れるに違いありません」
カルガリー大学歴史学部のケビン教授は、障害者のインストラクターという立場で学生の支援にあたっている。ケビン氏は、障害者支援に関して次のように述べている。
「私は、2人の障害学生の支援を行っている。必要に応じてNGOのスタッフとメールで連絡を取り合ったり、直接会ったりして話し合いながら、学生に一番適した学習サポートを行っている。障害学生の支援を行うとスタッフへの連絡や学生への対応などで、通常の業務以外に多くの時間を割かなくてはならなくなることを最初は懸念していたが、実際には、いっしょにサポートするスタッフとの協力関係もありスムーズに進めることができている。学生の成功体験を確立するためには、まず学生が授業にしっかりと参加することが大切である。あとは自発的にしっかりと教員とコミュニケーションを取ることが大事であるとアドバイスしている」
カルガリー大学にて
カルガリー大学とアンブローズ大学は、それ以外の20の大学のインクルーシブ教育とはシステムが異なっている。この2つの大学は、カナダで最初にインクルージョンアルバータプログラムを導入した大学である。
インクルージョンアルバータは、正式に大学にインクルーシブ教育プログラムを導入する前に、まずその組織を整えたのである。その組織をベースにしてNGO(非政府組織)をこれらの2つの大学のなかに設置した。それらのNGOは、政府機関から資金を調達し、スタッフの雇用の費用や学生を支援する資金を確保したのである。
したがってこれらの大学は、独自の財源をもっているため、それ以外の大学のようにインクルージョンアルバータから職員を派遣するのではなく、独自に職員を確保しているのである。
州政府はインクルーシブ教育を支援しており、補助金は年々増えている。しかし、政府機関であるためさまざまな規制があり、自分たちの考えや思いが容易には実現できないこともある。そのような場合は、あきらめずに直接的な関わりをしっかりともって協力し合っている。
いまはインクルージョンアルバータの取り組みに理解があり支援もしているが、その理解や支援がいつまでも継続される保障はない。継続のためには、多大な労力が必要である。州政府はいま、資金を提供した結果としての障害学生の就労状況について強い関心を示している。