Qualification acquisition support
アンブローズ大学の創立は1921年である。キリスト教系の私立の大学で、カルガリーの南西部に位置している。現在920人の学生が在籍しており、1クラス24人という小規模で目の行き届いた教育環境のなかで、人文、科学、技術などを学んでいる。
インクルージョンアルバータの支援を受けながら、1年間に3人の知的障害学生を受け入れている。
アンブローズ大学にて
プログラムサポーターのバネッセ氏は、3人の障害学生のうちのケロップさんをサポートし、学習や学内の設備が使いやすくなるよう支援している。クラス外の活動についても、ケロップさんのボランティア活動の支援や、彼のペットショップでのアルバイトの支援などもしている。
同じくサポーターのリサ氏は、すべての障害学生の1年次を担当し、入学してから大学生活に慣れるように支援している。ケロップさんを例にすると、彼がほかの学生と同様の経験をしながら互いに親近感がもてるように支援をしている。
障害学生のケロップさんは大学生活について次のように述べている。
「好きな授業はバイオロジー(生物学)です。ボランティアをしているバレーボールチームではコーチの役割をもち、ポールというニックネームで呼ばれています。人体機能や骨の仕組み皮膚等の詳細な部分を知りたいと興味をもっています」
またケロップさんの母親ドンさんは次のように述べている。
「母親としてケロップのことを心配していました。特にケロップが大学で提供されているプログラムに馴染むかどうかが心配でした。ケロップにはしっかりと学びたいという欲求がありました。しかし、大学側の提供している授業内容が理解できるかを心配していました。
可能な限り大学で学べるよう支援していますが、ケロップが取りたい授業の幅はとても広いのです。たとえば心理学、歴史、生物、宗教の授業に参加しています。教授陣は、ケロップに教える際にさまざまな工夫をしています。たとえば心理学の授業では、彼の興味が湧くようほかの動物の行動状況例を使うなどの工夫があります。
心理学を学んで知識が蓄積されてくると、息子と母親の会話のなかで、私がうっかり『忘れてしまった』というようなことをいうと、建設的なコメントをします。『年を取ってくると神経が絡まってきたりして、いろいろ大変なことになるのだよ』と励ましてくれます。
こんな話ができるようになるとは予想していませんでした。大学へ行って勉強をすることは彼にとって非常にいいことだと思っています。また、ほかの場面にでも社会性が向上したことを実感しています。それは非常に高いレベルで現れてきています。特定の人ではなく、広範囲にわたって周りの人とコミュニケーションをとることができるようになりました」
アンブローズ大学はクラスが少人数のため、サポート学生たちと障害学生との日常的なサポート体制が確立している。サポート学生は障害学生が授業についていけるよう、すべての学期に専属的にサポートしている。
学生たちにサポートに関して意見を聞いたところ、「とても楽しく(障害学生の)セリシャさんのサポートをしています」「私たちサポート学生にとっても大きな利益があります」などの声があった。
サポート学生にとっての利益とは、サポート学生と障害学生相互の特性や相性を見極めてきちんと配属したこと、小グループのなかにサポート学生を配属したことにより、グループの全メンバーの障害学生理解が促進したことがあげられる。さらに、想像していた不安を取り除き、一般学生と障害学生とが学内における人間関係をつくり上げてきたことが大きな利点である。
障害学生の受け皿を固めていくために大学では、障害学生を受け入れるにあたって教員らが、インクルージョンアルバータによる研修を受けている。インクルージョンアルバータは、インクルーシブ教育プログラムを受け入れている大学の職員や教員、学内でリーダーシップを取る部署の職員に対し、きちんとオリエンテーションを行い情報提供している。
研修の内容は、実際に教室に立って教える教員らが障害学生を受け入れる際に、どのようにすればよりよい授業ができるようになるかなどを取り上げ、大学でインクルーシブ教育のリーダーとなる人たちが方向性をしっかりと理解することができることをめざしている。
新しい大学がこのようなインクルーシブ教育プログラムを開始する際には、最初からすべてに手を広げようとせず、まず得意な分野で小さな実践をしてその実践体験を積み上げ、多方面に広げていくことが重要である。