《福祉コラムVol.42》知的障害者の定義とは?判断基準や診断方法などを紹介!

2022.11.07

知的障害者という言葉を聞いたことはありますか?知的障害者とは、18歳までに知的機能の低下が生じ、日常生活や社会生活に困難さを抱えている方をいいます。聞いたことがない方もいるかもしれませんが、我が国では約1%の方が該当するとても身近な障害なんです。ここでは、知的障害者の判断基準や診断方法を詳しく紹介していきます。

知的障害者の定義

知的障害者とは、「18歳までに知的機能の低下が生じ、日常生活や社会生活に困難さを抱えている方」をいいます。しかし、ひとことで知的障害といっても、専門機関によって様々な診断基準が設けられています。代表的なものに「DSM(ディーエスエム)」と「ICD(アイシーディー))」があり、この2つに共通している診断基準は以下の通りとなっています。

① 知能指数(IQ)が70未満であること

② 日常生活や社会生活への適応能力が低いこと

③ ①と②が18歳以下に生じていること

この3つを全て満たした場合に知的障害と診断されます。知能指数は知能検査と呼ばれる専門的な方法によって算出します。この数値によって重症度が判断され、知的障害者の能力を大まかに知ることができます。ただし、同じ知能指数であっても、できること・できないことには個人差があります。そのため、実際に知的障害者と接する場合には知能指数だけで判断するのではなく、生活の様子を見ながら個性を知ろうとする姿勢が大切になります。

・軽 度

 IQが69~50。支援があれば買い物などの家事も1人でできるようになります。コミュニ  ケーションをとることはできますが、曖昧な表現や長文の理解は難しい場合が多いです。

・中 度

 IQが49~35。買い物などの家事が1人でできるようになるまでには時間がかかったり、長 期間にわたって部分的に支援が必要となります。

・重 度

 IQが34~20。文字を読んだり数を数えることが難しく、食事や整容、入浴など日常生活 全般において継続的な支援が必要となります。ジェスチャーやイラストを用いることでコ ミュニケーションをとることができます。

・最重度

 IQが19以下。食事や整容、入浴など日常生活全般に継続的な支援が必要であり、ジェス チャーなどを用いてもコミュニケーションをとることが難しい場合が多くあります。 

以上が知的障害者の定義と診断基準になります。前述したように、専門機関によって用いられる定義や診断基準は異なります。もっと詳しい内容を知りたい方のために、多くの専門機関で用いられている「DSM」を紹介します。

DSMによる知的障害の定義

DSMとは「Diagnostic and Statstical Manual of Mental Disorders」の略称であり、日本語訳で「精神疾患の診断・統計マニュアル」といいます。1952年に米国精神医学会が初版を発行してから改訂を重ね、現在では第5版が出版されています(これをDSM-5といいます)。

このDSM‐5によると、知的障害とは、「発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害」と定義づけられています。

ここで注目してほしい点は、「知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害」という記述です。これは、従来の基準とは異なり、知能指数だけではなく、日常生活や社会生活の中での適応度を含めて総合的に診断の該当/非該当や重症度を判断することを意味しています。

DSMによる知的障害の診断基準

DSM-5の診断基準で知的障害と診断されるためには、以下の3点をすべて満たす必要があります。

①臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確かめられる、論理的思考、問 題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など、知的機能の欠陥。

②個人の自立や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなく なるという適応機能の欠陥。継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職 場、および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する。

③ 知的および適応の欠陥は、発達期の間に発症する。

※適応機能については、概念的領域(記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識 の習得、問題解決、および新規場面における判断においての能力についての領域)、社会的領域(特に他者の思考・感情・および体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能、友情関係を築く能力、および社会的な判断についての領域)、実用的領域(特にセルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理、および学校と仕事の課題の調整といった実生活での学習および自己管理についての領域)の3つが重要とされています。

DSMとICDの違い

ここまでDSMについて紹介をしてきましたが、これと並んで世界的に使用されている診断基準にICDがあります。ICDは「International Statstical Classification of Diseases and Related Health Problems」の略称であり、日本語訳では「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」といいます。

ICDはWHO(世界保健機関)が作成しています。日本はWHOに加盟しているため、厚生労働省のホームページに載っている診断や報告には、原則としてICDが使われています。2018年には最も新しい分類であるICD-11が作成されましたが、日本語訳が完成していないため、現在は1つ前の基準であるICD‐10が用いられています。

このICD‐10によると、知的障害とは「精神の発達停止、あるいは発達不全の状態であり、発達期に明らかになる全体的な知的水準に寄与する能力の障害(認知、言語、運動および社会的能力の障害」と定義づけられています。DSM‐5の定義と比べると知的能力が重視されている印象を受けるかもしれませんが、最新のICD-11ではDSM‐5と同様に適応能力に焦点が当てられています。

まとめ

いかがでしたか?ここまで知的障害者の定義と診断基準を紹介してきました。これまでの内容をまとめます。

①知的障害者とは、「18歳までに知的機能の低下が生じ、日常生活や社会生活に困難さを 抱えている方」をいう。

②知的障害の主な診断基準は、「知能指数(IQ)が70未満」「日常生活や社会生活への適 応能力が低い」「18歳以下に生じている」の3つ。

③知的障害の重症度は知能指数(IQ)に応じて判断され、「軽度」「中度」「重度」  「最重度」の4つに分類される。